骨盤底筋は体幹のインナーマッスルとしては、腹横筋や多裂筋とともに協調的に働くことで、体幹の安定性に役立っている重要な筋肉の1つです。
また、呼吸との関係も深く、呼吸しながら動くピラティスにおいても重要視しないといけない筋肉です。
ただ、あまり馴染みのない筋肉でもあるため、重要とは言ってもピラティスにどう活かしたら良いのか分からないという方も多いかもしれません。
そこで、今回は骨盤底筋の機能解剖から運動機能、股関節との関連や評価方法まで解説しました。
骨盤底筋をゼロから学ぶ動画
骨盤底筋の機能解剖
骨盤底筋は以下の筋群の総称を指します。
Ashton-Miller JA,2007
- 肛門挙筋(腸骨尾骨筋、恥骨尾骨筋、恥骨直腸筋、恥骨内臓筋)
- 尿道括約筋
- 肛門括約筋
骨盤底筋の役割としては、臓器を受け止めるハンモックとしての役割と排尿・排便を調整する役割を担っています。
また、間接的に腹横筋や横隔膜と連動し、腹腔内圧を調整し姿勢制御の役割も担っています。
このような役割を持つことから、骨盤底筋が機能不全に陥ると膀胱脱や失禁を起こす可能性があります。
骨盤底筋は細かく分けると3層構造となっており、実際にピラティスによるエクササイズの対象となるのは、肛門挙筋がある深層になります。
尿道括約筋は中間層の尿生殖隔膜に含まれ、恥骨結合と坐骨結節の間にあり、肛門括約筋は表層の臓側骨盤隔膜に含まれ、骨盤腔内の臓器の表面を覆っている臓器間を埋める結合組織に含まれます。
ここでは、実際にピラティスに活かせるように、深層の肛門挙筋の機能解剖を中心に解説していきます。
肛門挙筋の機能解剖
- 恥骨直腸筋
起始:恥骨結合の両側の恥骨上枝
停止:肛門直腸結合をぐるっと取り巻き、外肛門括約筋の深部と絡み合っている- 恥骨尾骨筋
起始:恥骨
停止:肛門尾骨靭帯、尾骨- 腸骨尾骨筋
起始:内閉鎖筋筋膜の腱様弓
停止:腸骨尾骨筋縫線、尾骨
肛門挙筋全体の持続的な緊張保持により、尿生殖裂孔が閉鎖し、骨盤内臓器の支持・排泄の調整を行っています。
恥骨尾骨筋と腸骨尾骨筋は、肛門の後方で癒合し挙筋板を形成しています。
恥骨尾骨筋と直腸尾骨筋はほぼ水平に走行し、直腸と膣の上方2/3を挙筋板状に保持し、腹圧が直接筋膜や靭帯などの支持組織に加わらないようになっています。
直腸尾骨筋は、内閉鎖筋筋膜や尾骨に付着しており、収縮によって尾骨を身体の中にしまい込むような動きが可能です。
また、内閉鎖筋筋膜と連結していることから、股関節との関連も密であることが考えられます。
恥骨直腸筋は、排便の抑制に働き、外肛門括約筋を助けて肛門を閉じた状態に保ちます。恥骨直腸筋を含む肛門挙筋が弛緩していると、肛門が十分に閉鎖されず、失禁してしまう恐れがあります。
反対に、緊張しすぎていると、筋肉が緩められず肛門は閉じたままとなり、便秘の原因にもなったり、排便時の過剰ないきみにも繋がります。
骨盤底筋の運動機能
骨盤底筋は臓器を支えるハンモックとしての役割があると言いましたが、その役割から安静時も常時働いています。
遅筋繊維の割合が多く、恥骨尾骨筋の前方部の67%、後方部での76%、尿道周囲の肛門挙筋の95%とされており、姿勢保持筋としての役割が大きいと考えられます。(参考文献②)
さらに、骨盤底筋は単独では働かず、骨盤底筋の収縮に伴って腹筋群も収縮し、反対に腹筋群の収縮によって骨盤底筋も収縮するというような相互に関係し合っています。
腹筋群だけではなく、多裂筋や横隔膜、腹横筋とともにコアユニットとして、体幹を上下前後から支えることで、体幹の動的安定化の役割を担っているとされています。(参考文献③)
このことから、体幹運動において腹直筋や腹斜筋群、腹横筋を考えるのと同じように、骨盤底筋も体幹筋活動に関わる筋肉の一部として考えないといけません。
また、ピラティスでは呼吸も重要視されますが、骨盤底筋は呼吸とも関連があります。横隔膜と骨盤底筋はその位置関係や活動状況からもお互いに拮抗する関係にあります。
吸気時には、横隔膜は求心性収縮で下方へ動き、対して、骨盤底筋は遠心性収縮をし、大きく風船を膨らませるように下腹部が膨らみます。一方、呼気時には、横隔膜は遠心性に上方へ動き、対して、骨盤底筋は求心性収縮をし、上方へ引き上がるように動きます。
呼吸時にこのように横隔膜と骨盤底筋が連動して動いているかという視点は重要で、上手く連動している場合は同方向へ動きますが、機能不全があるとそれぞれ反対方向へ動く場合があります。
例えば、反り腰姿勢の方の場合は、横隔膜が上方へ、骨盤底筋が下方へ動くことで、腹筋群が伸張されて収縮が抜けやすく、腰部伸筋群の収縮が強くなりやすいという傾向にあります。
骨盤底筋の機能不全の原因
骨盤底筋の機能不全の原因として代表的なものとしては、妊娠、出産、肥満、排便時のいきみ、骨盤内臓器の術後、加齢、腰痛や仙腸関節の機能不全などが挙げられます。
特に妊娠、出産という女性の中でも大きなライフイベントの影響は大きく、妊娠後期には子宮の重さは5kgを超え、靭帯や骨盤底筋には重さによる負荷が加わります。
さらに、経膣分娩では骨盤底筋は過剰に伸ばされ、下部尿路の機能を支配する神経も損傷を受けます。(参考文献④)
妊娠、出産により腹筋群、骨盤底筋は過剰な身長によって支持性が低くなるため、腹圧を身体の内側へ維持することができず、外側へ押し出されるような変化が起こります。
これが反り腰やスウェイバックなどの不良姿勢の原因の1つです。
骨盤底筋と股関節筋の関係
内閉鎖筋、梨状筋、尾骨筋、腸骨筋と筋膜を介して連結しており、骨盤の安定性に関与しています。
中でも、上述しましたが、直腸尾骨筋は内閉鎖筋筋膜に付着し解剖学的に連結しているため、内閉鎖筋と骨盤底筋の関係を考えることは重要です。
また、骨盤底筋とともに骨盤壁を形成する筋肉という点でも、内閉鎖筋と骨盤底筋の関係には着目しないといけません。
ここで、内閉鎖筋の解剖学をおさらいしておきましょう。
【内閉鎖筋】
- 起始:閉鎖膜と閉鎖孔外周の内側面
- 停止:大腿骨の転子窩
- 作用:股関節の外旋、内転、伸展(股関節の肢位によっては外転に作用)
- 神経支配:仙骨神経叢L5〜S2
特徴的なのは、閉鎖膜の内面とその周囲で閉鎖孔を囲む寛骨の領域から起始し、坐骨結節で90°折れ曲がって、大腿骨転子窩へと停止するというその走行です。
その走行から、骨盤の内側面から外側面後方にかけて、広く骨盤壁の形成に関わる筋肉であることがわかります。
直腸尾骨筋が内閉鎖筋と連結があると言いましたが、内閉鎖筋が直腸尾骨筋の起始腱を形成し、肛門挙筋の一部を担っています。
これらから考えられることは、股関節の動きの悪さによって内閉鎖筋の張力が高まる、あるいは低くなると、肛門挙筋の張力にも影響が起こります。
それによって、臓器の支持や排泄の調整はもちろん、呼吸や体幹機能にも影響が起こる可能性があります。
また、股関節の外旋筋群というと梨状筋が大きな筋肉というイメージがあるかもしれませんが、実は外閉鎖筋、内閉鎖筋の方が大きな筋繊維を持っています。
もし骨盤底筋の機能不全によって、連結する内閉鎖筋の機能も低下した場合、股関節外旋筋群の中でも大きな質量をほこる内閉鎖筋の機能不全の影響は大きいことが予測できます。
骨盤底筋の評価
骨盤底筋の評価として、主に以下の3つを評価しましょう。
- 骨盤底筋の機能
- 呼吸パターンの評価
- 腹圧上昇時の骨盤底筋を含むインナーマッスルの評価
それぞれ解説していきます。
骨盤底筋の機能
背臥位、あるいは腹臥位で「尿を我慢するように」と指示を出し、尾骨が身体の内側へしまい込まれるような動きがあれば、正しく収縮できていると考えましょう。
評価時はセラピスト、あるいは本人に尾骨を触れてもらい、動きを確認します。
呼吸パターンの評価
上述したように、横隔膜と骨盤底筋は呼吸時に互いに連動して動いています。
なので、評価としては、呼吸時に両者が連動し、協調的に活動しているかどうかを評価します。
吸気時は横隔膜が収縮して下方へ下がり、骨盤底筋は遠心性に働き、呼気時は横隔膜が弛緩して上方へ動き、骨盤底筋は求心性に収縮し上方へと動きます。
まずは、視覚的に確認しやすく、触診もしやすい横隔膜の動きから確認すると良いでしょう。
骨盤底筋を確認する際は、筋機能評価時と同様に尾骨の動きを確認しましょう。
呼吸の評価における見るべきポイントを以下にまとめました。
- 吸気時に下部胸郭が拡張しているか(特に横、後方への動き)
- 吸気時に頚部、肩甲帯、腰背部で過剰に代償していないか
- 吸気時に腹部が膨らんでいるか
- 呼気時に胸郭がしぼんでいるか
- 呼気時に尾骨が身体の内側へしまい込まれる動きがあるか
腹圧上昇時の骨盤底筋を含むインナーマッスルの評価
咳や臥位における下肢の挙上など負荷がかかった際の骨盤底筋を含むコアユニットの評価も重要です。
骨盤底筋の機能不全、あるいはその他の多裂筋や横隔膜などコアユニットを構成する筋肉の機能不全があると、負荷がかかった際、腹部や骨盤底に対して外側に圧が逃げることが確認できます。
本来であれば、腹部や骨盤底に対して内側へ動くことが確認できます。
骨盤底筋の鍛え方
骨盤底筋の機能不全に対して、骨盤底筋を鍛える際の基本的な流れとしては、以下のようになります。
- 骨盤底筋、体幹、股関節のストレッチ
- 腹式呼吸による横隔膜-骨盤底筋の活性化
- 除重力下での骨盤底筋や腹横筋に対するエクササイズ
- 抗重力下での骨盤底筋や腹横筋に対するエクササイズ
- 骨盤底筋を含むコアユニットの収縮を維持しつつダイナミックなエクササイズ
ストレッチで骨盤底筋が働きやすい環境を整え、除重力位から段階的に難易度を高めていき、動作に繋げていく流れになります。
呼吸を利用した骨盤底筋の活性化する方法を例として紹介します。
まず、前提として吸気時に骨盤底筋は緩み、呼気時に上方へ引き上がるように収縮するというのを覚えておきましょう。
呼吸をする姿勢は本人が骨盤底筋の収縮を感じやすい姿勢であれば、特にこだわらなくても大丈夫です。
収縮する感覚が得られにくい場合は、臥位で股関節を屈曲・外旋、陰部を上方へ向けるようにし、重力で収縮しやすい状態で行うことも有効です。
他には、座位でタオルを丸めて陰部へ当て、骨盤底筋へ感覚入力した状態で行うことも有効です。
方法に正解はなく、本人が自覚しやすい方法で行うのがベストです。
まとめ
- 骨盤底筋は肛門挙筋、肛門括約筋、尿道括約筋から構成される
- 臓器を受け止めるハンモックとしての役割と排尿・排便を調整する役割を担う
- 骨盤底筋は遅筋繊維がほとんどを占める
- 横隔膜と拮抗する関係にあり、吸気時に遠心性に下方へ移動、呼気時に求心性収縮し上方へ移動する
- 骨盤底筋の代表的な機能不全の原因は、妊娠、出産、肥満、排便時のいきみ、骨盤内臓器の術後、加齢、腰痛や仙腸関節の機能不全
- 直腸尾骨筋は内閉鎖筋筋膜に付着し解剖学的な連結があり、内閉鎖筋と骨盤底筋の関係を考えることは重要
- 骨盤底筋の評価としては、呼吸パターンの評価や咳など腹圧が高まる際の反応を確認する
- 骨盤底筋を鍛える流れとしては、ストレッチで骨盤底筋が働きやすい環境を整え、除重力位から段階的に難易度を高めていき、動作に繋げていく
本記事では、上記の内容について解説しました。
腹筋や背筋など、他の大きな筋肉と比べると小さく、重要でないように感じますが、決して軽視して良い筋肉ではありません。
今まであまり意識してこなかったという方は、本記事をきっかけに骨盤底筋の評価やアプローチもピラティスに組み込んで実践すると、さらに効果も高まりますので、ぜひ試してみてください。
参考文献
1.Ashton-Miller JA,et al : Functional anatomy of the female pelvic floor. Ann N Y Acad Sci 1101 : 266-296,2007
2.Gilpin SA, et al : The pathogenesis of genitourinary prolapse and stress incontinence of urine. A histological and histochemical study. Br J Obstet Gynaecol 96 : 15-23, 1989
3.Smith MD, et al : Postual activity of the pelvic floor muscles is delayed during rapid arm movements in women with stress urinary incontinence. Int Urogynecol J Pelvic Floor Dysfunct 18 : 901-911, 2007
4.中田 真木 : 妊娠と尿失禁, 産婦人科の実際 53(5): 751-757. 2004