ピラティスが深まる肩関節の機能解剖・バイオメカニクスのまとめ

ピラティスを指導するにあたり、肩こりや肩の痛み、猫背など不良姿勢といった肩周りに問題を抱えるクライアントは少なくありません。

肩関節は大きく動く関節ですが、その反面非常に不安定であるという側面も持っている関節です。

そのため、肩関節に対するピラティスを指導するには、肩関節を構成する関節や筋肉を理解し、脱臼リスクも把握した上で指導することが必須です。

今回は肩関節を構成する関節、筋肉の機能解剖やバイオメカニクスから、肩関節がどういった特徴を持ち、どんな動きをする関節なのかを解説していきます。

目次

ピラティスで必要な肩関節を構成する3つの関節

肩関節というのは狭義の意味では肩甲上腕関節を指し、広義の意味では肩甲上腕関節に加えて、複数の関節を含んでおり「肩複合体」とも呼ばれます。

【肩複合体の構成要素】

  • 肩甲上腕関節
  • 肩甲胸郭関節
  • 肩鎖関節

肩には直接関与していないが、胸鎖関節も重要!

肩甲上腕関節は上腕骨頭と肩甲骨の関節窩から構成され、3軸性の球関節です。

3軸性ということで、屈曲/伸展、外転/内転、外旋/内旋の3つの軸の動きを持っており、可動性に富んだ構造をしています。

この大きな可動性を実現するためには、肩甲上腕関節だけでは不可能であり、肩複合体がそれぞれ十分に可動性を持ち、かつ、協調的に動く必要があります。

【肩関節の屈曲を100%(180°)とした場合の各関節の割合】
肩甲上腕関節:40%(90°)
肩甲胸郭関節(体幹伸展):20%
肩鎖関節:10%(30°)
胸鎖関節:10%(45°)
その他:20%

つまり、肩関節だけでなく、鎖骨、胸骨、肋骨、背骨などの動きが肩の動きに影響するということを覚えておきましょう!

では、各関節の構成要素がどういった形態をしているのか順番に見ていきましょう!

肩甲上腕関節の機能解剖とバイオメカニクス

肩甲上腕関節は大きな可動性を有していますが、可動性が大きいが故に不安定であるという特徴があります。

これは関節を形成する上腕骨と肩甲骨の形状からも言えます。

【上腕骨の形状】

  • 上腕骨頭は完全な球のほぼ半分の形
  • 関節窩に対して凸になっている
  • 内側顆と外側顆を結んだ線に対し、骨頭は約20~30度後捻している
  • 骨頭は上内側を向いており、上腕骨の長軸に対し、約135度の頚体角を成している

【肩甲骨の形状】

  • 関節窩はやや凹になっている
    (同じ球関節でも股関節と比べ、骨頭に対して関節窩がかなり小さいのが肩関節の特徴)
  • 関節窩の内側縁に対して約5度上方を向いている
  • 関節窩が前額面に対して約35度前方を向いている

簡単にまとめると肩関節の骨の特徴は

・関節窩が骨頭に対して小さく骨頭の上方と前方は骨性の支持がない
・筋肉や靭帯による軟部組織性の支持だけ
・つまり肩関節は伸展・内転・外旋方向には不安定になりやすい。

です。

肩甲上腕関節は構造的に不安定なので、他の関節が協調的に動いて不安定さを補うことが必須!

肩関節のリズム「臼蓋上腕リズム」

関節が脱臼しないための機構として、臼蓋骨頭リズムと肩甲上腕リズムがあります。

臼蓋骨頭リズムとは、臼蓋に対する骨頭の動きを指し、4つの動きがあります。

  • 下垂位での骨頭の上下移動
  • 骨頭の転がり
  • 骨頭の滑り
  • 軸回旋
信原 克哉:肩 その機能と臨床. 医学書院. 2012

これらの動きが複合的に生じることで、円滑な関節運動を可能にしています。このリズムが筋肉や関節包の短縮によって崩れてしまうことで痛みや動きの制限につながります。

肩関節のリズム「肩甲上腕リズム」

肩甲上腕リズムとは、肩関節運動時の上腕骨と肩甲骨がどのように協調して動くのかを表しています。

「外転30度を超える辺りから肩甲上腕関節が2度外転・肩甲胸郭関節が1度上方回旋し2:1の割り合いで動く」

とされています。

屈曲運動時、上腕骨の動きのみだと約95度しか挙上できませんが、肩甲骨の動きを含む場合は約161度まで挙上が可能です。

つまり、肩関節運動において上腕骨と肩甲骨が2:1のリズムで動くことで円滑な関節運動ができるということですね。

臼蓋骨頭リズムは関節運動時の骨頭の動き
肩甲上腕リズムは関節運動時に上腕骨:肩甲骨=2:1で動くことを表す

肩甲胸郭関節の機能解剖とバイオメカニクス

肩甲胸郭関節は、胸郭と肩甲骨とで形成される関節です。

胸郭上を肩甲骨は挙上/下制、前傾/後傾、内転/外転、上方回旋/下方回旋、内旋/外旋のあらゆる方向へ動くことができます。

一次元的な動きではなく、三次元的に各方向へ制限なく動けることが理想です。

肩甲胸郭関節の運動は、胸鎖関節と肩鎖関節の2つの運動軸があり、それぞれの運動軸で対応する動きが異なります。

【胸鎖関節を運動軸とする動き】

  • 挙上/下制
  • 内転/外転

【肩鎖関節を運動軸とする動き】

  • 前傾/後傾
  • 上方回旋/下方回旋
  • 内旋/外旋
竹井 仁 他:MRI(磁気共鳴画像)を用いた水平面における肩関節の肢位の変化による肩鎖関節と胸鎖関節の関節運動学的解析. 日本保健科学学会誌,2010,51-58.

これらから、肩甲骨のどの動きが制限されているかを考える際には、どこを軸に動く運動なのかを理解しておくことが大切です。

例えば、肩がすくみやすく肩甲骨が挙上しやすい方に対し、肩甲骨を下制させるようなエクササイズを行うのは良いですが、運動軸である胸鎖関節が動いていないとその場限りの変化になりやすいです。

このような場合は胸鎖関節を開く、首を長くする意識が大事になり、それらを組み込んだエクササイズを行うことが必要になるのです。

肩鎖関節の機能解剖とバイオメカニクス

肩鎖関節は鎖骨と肩甲骨で形成される関節です。

鎖骨も肩甲骨と同じく、一次元的な動きではなく、三次元的に動き、挙上/下制、前進/後退、前方回旋/後方回旋の方向へ動きます。

以下のように、肩関節の角度によって鎖骨の動きが起こります。

第1相:肩関節外転 0°、鎖骨の挙上 0°、回旋 0°
第2相:肩関節外転 30°、鎖骨の挙上 12-15°、回旋 0°
第3相:肩関節外転 90°、鎖骨の挙上 30°、回旋0°
第4相:肩関節外転 180°、鎖骨の挙上 60°、回旋 45°

ポイントは肩関節外転90度を境に鎖骨の回旋が起こるということです。

外転90度を起点に痛みや可動域制限を考えることで、肩関節の問題が鎖骨の挙上や下制にあるのか、回旋にあるのかを絞ることができます。

また、肩鎖関節は肩関節運動の初期と90度以降に関与し、90度以下の動きには主に胸鎖関節が関与します。

90度以上で問題があるのなら肩鎖関節にフォーカス、90度以下で問題があるのなら肩鎖関節以前に胸鎖関節を含めた胸郭の問題にフォーカスするべきということになります。

肩関節外転90度以上で鎖骨の後方回旋が起こる
肩関節挙上の初期と90度以上は肩鎖関節、90度以下では胸鎖関節が関与する

ローテーターカフの機能解剖

肩関節にはローテーターカフと呼ばれる4つの筋肉があり、いわゆるインナーマッスルと呼ばれるような筋群の総称です。

体表から深い位置にあり、関節に近い位置に存在し、肩関節の安定性に関与する重要な筋群です。

【肩関節のローテーターカフ】

  • 棘上筋
  • 棘下筋
  • 小円筋
  • 肩甲下筋

ローテーターカフは、肩関節に近い位置に存在するため、骨にも付着しますが関節包にも付着し、関節包が弛緩する肢位で働くことで肩関節の安定性に関与しています。

関節包は肩関節の静的安定に関与しますが、例えば、外転時には上方の関節包が緩みますが、この時に上方を走行する棘上筋が働くことで、上腕骨頭が過剰に上方へ動かないように制動しているのです。

ローテーターカフは関節包が緩む肢位で働き、肩関節の安定性に関与する
ローテーターカフはそれぞれ協調的に働き、上腕骨頭を中心に安定させることで関節運動の円滑化に関与する

では、それぞれの筋肉について機能解剖を解説していきます。

棘上筋の機能解剖

起始:肩甲骨棘上窩
停止:上腕骨の大結節上部、肩関節包
作用:肩関節の外転、外旋(後部繊維)、内旋(前部繊維)
神経支配:肩甲上神経(C5〜6)

坂井 建雄:プロメテウス解剖学アトラス解剖学総論. 運動器系 第3版

特徴としては、肩関節外転の0〜90度において強い収縮力を発揮し、上腕骨頭を肩関節の上方から関節窩へ引きつけることで、肩関節を安定させています。

肩関節を外転させる筋肉としては、三角筋もありますが、外転時に三角筋だけが収縮すると上腕骨頭は上方へ偏位してしまい、可動域制限や痛みの原因となってしまいます。

棘上筋が働き上腕骨頭を安定させた上で三角筋が働くことが大事になります。

また、棘上筋は前部繊維と後部繊維に分かれており、前部繊維が内旋、後部繊維が外旋の作用を有しています。

外転0〜90度で強く収縮し、三角筋と協調的に働いて上腕骨頭を関節窩へ引きつけ安定させる
前部繊維は内旋、後部繊維は外旋に作用し、自由度が高い肩関節の微妙なコントロールに役立つ

棘下筋の機能解剖

起始:肩甲骨棘下窩
停止:上腕骨大結節中部、肩関節包
作用:肩関節の外旋、外転(上部繊維)、内転(下部繊維)
神経支配:肩甲上神経(C5〜6)

坂井 建雄:プロメテウス解剖学アトラス解剖学総論. 運動器系 第3版

特徴としては、肩関節外転時に上腕骨頭の後方から、上腕骨頭の下方へ滑りを促し、円滑な関節運動に関与しています。

棘下筋は上部繊維と下部繊維に分かれており、上部繊維は肩関節に対して横に走行し、下部繊維は斜めに走行しています。

その走行の違いから、上部繊維は肩関節の角度が0〜90度くらいまでの肩よりも腕が挙がらない範囲で働き、下部繊維は斜め下方から走行するので、90度以上の肩よりも高い位置での運動に主に関与します。

肩関節外旋運動ともに、上腕骨頭の下方滑りを促す
上部繊維は0〜90度くらいの低い位置で、下部繊維は90度以上の高い位置で主に働く

小円筋の機能解剖

起始:肩甲骨外側縁
停止:上腕骨大結節下部、肩関節包
作用:肩関節の外旋
神経支配:腋窩神経(C5〜6)

坂井 建雄:プロメテウス解剖学アトラス解剖学総論. 運動器系 第3版

特徴としては、棘下筋と同じく、肩関節外転時における上腕骨頭の下方への滑りを促すことです。

ただ、棘下筋が肩甲骨内側から付着しており、かなり背中側から肩関節へ向かうのに対し、小円筋は肩甲骨の外側から肩関節へ向かうので、体の側面に近い位置に存在しています。

その違いから、棘下筋は外転位で働きやすいですが、小円筋は屈曲位で外旋、上腕骨頭の下方滑りを促すのに作用します。

なので、外旋運動を指導する際には、棘下筋を働かせたいのか、小円筋を働かせたいのかを理解して姿勢を調整することが重要となります。

棘下筋は外転位、小円筋は屈曲位で働きやすい

肩甲下筋の機能解剖

起始:肩甲骨前面の内側縁
停止:上腕骨の小結節、小結節稜の上部
作用:肩関節の内旋、水平内転
神経支配:肩甲下神経(C5〜6)

坂井 建雄:プロメテウス解剖学アトラス解剖学総論. 運動器系 第3版

ローテーターカフの中で唯一内旋に作用し、骨頭を前から守る筋肉です。

肩甲骨の内側に広く分布し、棘下筋に匹敵するくらい大きな筋肉です。

棘下筋と同様に、上部繊維と下部繊維があります。

上部繊維は0〜90度くらいの低い角度で、下部繊維は90度以上の高い位置で主に働きます。

上部と下部の繊維の違いだけでなく、肩甲下筋は筋肉内に多くの腱が存在しており、自由度の高い肩関節のあらゆる動きに対応できるような構造になっています。

肩甲下筋は唯一の内旋筋であるということもありますが、肩関節の前面を走行するので、猫背など不良姿勢の影響で筋肉が短縮しやすいです。

相対的に、他のローテーターカフは伸張されて弱くなりやすいので、肩甲下筋とそれ以外の筋群のバランスの悪さを整えていくことが1つのポイントとなるでしょう。

上部繊維は0〜90度くらいの低い位置で、下部繊維は90度以上の高い位置で主に働く
複数の筋内腱を有しており、肩関節のあらゆる肢位に対応できるようになっている

ローテーターカフ以外で重要な2つの筋肉

ローテーターカフ以外にも肩関節にとって重要な筋肉があります。

それは、「前鋸筋」と「広背筋」の2つ。

肩甲骨の動きに関して、これら2つの筋肉が非常に重要なので、それぞれ解説します。

前鋸筋の機能解剖

起始:第1~8肋骨の外側面中央
停止:肩甲骨内側縁
作用:肩甲骨外転、上部繊維→肩甲骨下方回旋、下部繊維→肩甲骨上方回旋
神経支配:長胸神経(C5〜7)

坂井 建雄:プロメテウス解剖学アトラス解剖学総論. 運動器系 第3版

特徴としては、肩甲骨の運動に大きく貢献しており、上腕骨頭に対して肩甲骨を動かして臼蓋を適合させるために重要な筋肉です。

肩関節運動において、上腕骨頭に対する肩甲骨の動きは非常に重要で、肩甲骨が動かないと上腕骨頭が過剰に動いてしまい、腱板など肩周りの組織のストレスを高めてしまいます。

また、前鋸筋は肋骨に付着しますが、同じく肋骨に付着する外腹斜筋と解剖学的に筋連結が認められています。

なので、前鋸筋の機能は外腹斜筋にも影響を与え、逆もまた然りなので、肩関節と体幹の関係性に関しても着目することが大事です。

キャット&カウのような、体幹と肩関節の筋収縮を含むエクササイズは、前鋸筋も外腹斜筋も促通できるので、より機能的な体の使い方を学習するのに適していると言えるでしょう。

上腕骨頭に対して、肩甲骨を動かして関節窩を適合させることに役立つ
外腹斜筋と解剖学的に筋連結を認めており、体幹と肩関節の協調的な運動がポイント

広背筋の機能解剖

起始:第6胸椎~第5腰椎にかけての棘突起稜
停止:上腕骨の小結節稜
作用:肩関節伸展、内転、水平外転、内旋
神経支配:胸背神経(C6〜8)

坂井 建雄:プロメテウス解剖学アトラス解剖学総論. 運動器系 第3版

機能面でみると、前鋸筋と同様に菱形筋群や僧帽筋上部繊維の拮抗筋にあたります。

菱形筋群、僧帽筋上部繊維は肩関節運動の代償として働きやすい筋肉で、それらを抑制するに肩関節を下方へ引く広背筋の作用が重要となります。

肩甲骨の下角の上を走行して肩関節へ向かっています。

広背筋が硬いと肩甲骨の外転や上方回旋時に下角の動きが制限されてしまいます。

また、胸腰筋膜を介して反対側の大殿筋と解剖学的に筋連結を認めており、対角線の体の動きに重要な連結です。

バードドッグやスイミングのような、肩関節と股関節の伸筋を使うようなエクササイズでこの筋連結を働かせることができます。

肩関節を下方へ引き、菱形筋群や僧帽筋上部繊維に拮抗する
反対側の大殿筋と解剖学的に筋連結を認め、股関節と肩関節の協調的な運動がポイント

肩関節の機能解剖・バイオメカニクスのまとめ

今回は、肩関節に関わる肩甲上腕関節、肩甲胸郭関節、肩鎖関節の3つの関節、それらを制御するために必要なローテーターカフの4つの筋群と前鋸筋、広背筋について解説しました。

肩関節は動きの自由度が高いですが、その反面、不安定な側面もあるため、非常に動きも運動指導する側としても難解な関節です。

ですが、本記事で解説した関節や筋肉の機能解剖、バイオメカニクスを理解しておけば、正常から外れた動きやアライメントを見つけることは難しくないはずです。

もちろん、頸部や胸郭、体幹など他の要素も多分に含まれるので、簡単とはいかないですが、本記事の内容は肩関節を理解するにあたって役に立つ内容となっているはずです。

ぜひ参考にして知識の整理、運動指導へ活かしていただければと思います。

N.Pilates Seminar

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