脊柱の動きが分かる!ピラティスで使う脊柱の解剖・バイオメカニクスまとめ

ピラティスを指導する際、こんな悩みを持つことありませんか?

  • スウェイバックや猫背の姿勢は明らかに脊柱に問題があると思うが、どう修正していけば良いか分からない
  • 脊柱の屈伸や回旋系の運動をとりあえず指導するが、いまいち効果が出ない
  • そもそも、脊柱の解剖学がよく分かっていないから脊柱の動きが分からない

脊柱は身体の中心を貫く柱のような大事な部位です。

人間の中心部分であり、ピラティスで最も改善が見込まれる部位である「脊柱」

今回はピラティスに必要な脊柱の解剖学とバイオメカニクスを解説していきます。

目次

ピラティスで必要な脊柱を構成する3つの部位

脊柱は大きく分けると、以下の3つに分けることができます。

  • 頚椎
  • 胸椎
  • 腰椎

各部位はそれぞれ異なる特徴を持つので、それぞれの特徴を踏まえつつ、ピラティスの中で動きを引き出し、あるいは動きが悪い部分を評価していく必要があります。

と言うわけで、まずは各部位の解剖学やバイオメカニクスから、特徴を把握しましょう。

頚椎の機能解剖とバイオメカニクス

頚椎は大きく分けると、上位頚椎と下位頚椎に分けることができます。

そして、上位頚椎は環椎後頭関節(C0-1)と環軸関節(C1-2)、下位頚椎はそれ以下のC3~7で構成されています。

  • 環椎後頭関節:環椎の内側方向への凹面と後頭顆の凸面で構成され、屈伸の動きが主。
           屈曲・伸展可動域はそれぞれ15°で頚椎全体の屈伸の動きの50%を担う。
  • 環軸関節:軸椎の上関節面の角度が水平面に対し、約20°であり、回旋の動きが主。
         回旋可動域全体の50%、40~45°を環軸関節が担っている。
  • 下位頚椎:上関節面が前額面に対して約45°で下位へいくほど傾斜が増加し、屈伸が大きく、側屈と回旋が続     
         く。

環椎後頭関節は屈伸が得意!
環軸関節は回旋が得意!

上位頚椎と下位頚椎の決定的な違いとしては、「下位頚椎には存在する鈎状突起と椎間板が上位頚椎には存在しない」ということです。

鈎状突起と上位椎体によって鈎椎関節が形成され、それによって、安定性を確保しつつも屈曲・伸展の動きに対して制限しないといった特徴があります。

また、鈎状突起によって椎間孔の前後径を確保し、椎間板や椎間関節は椎間孔の上下孔を確保しています。

これによって頚神経が走行するスペースを確保しています。

つまり、下位頚椎に比べて上位頚椎は不安定で椎間孔が狭いので、神経が圧迫されやすく、上位頚椎由来の頚部や上肢の症状が出やすいということが言えます。

上位頚椎には鈎状突起と椎間板が存在しない!
上位頚椎は下位頚椎に比べて、椎間孔が狭く、神経の問題を引き起こしやすい!

よくある問題は、スウェイバック姿勢による猫背で頭部が前方に出たヘッドフォワードポスチャーと呼ばれるものです。

胸椎の後彎が強く、下位頚椎は屈曲し上位頚椎は過伸展してしまうため、上述したように上位頚椎は不安定で椎間孔が狭いので、神経症状が起こりやすいと言えます。

この場合、頚椎の解剖学的特徴を踏まえ

  • 上位頚椎の前屈の動きを出した上で安定させるような運動
  • 下位頚椎から胸椎の伸展を引き出すような運動

をピラティスで作り出す必要があります。

胸椎の機能解剖とバイオメカニクス

胸椎は12個もの椎体から構成され、数が多く上位と下位では形状が微妙に異なります。

簡単にするため、上位、中位、下位の3つに分けて考えます。

  • 上位胸椎:椎体の前後径が大きく、棘突起は後方水平に突出しており、下位頚椎の形状と似てい
         る
  • 中位胸椎:棘突起の尾側への傾斜が強く、屈伸の可動性は少なく、回旋が大きくなる
  • 下位頚椎:腰椎に近づくにつれ、椎体は横径が大きくなり、棘突起は水平化していき、腰椎の形
         状に近づく

上位から中位にかけて、次第に棘突起が尾側への傾斜を強めていき、回旋しやすい形状へ近づいていき、中位から下位にかけては再び棘突起が水平化し、屈伸しやすい形状になっていきます。

胸椎は腰椎と比べて回旋が得意!

脊柱の中でも胸椎は回旋の動きが大きく、これは椎間関節が前額面に対して平行で回旋・側屈の動きは制限されにくい形状をしています。一方、屈伸の動きはその形状から、関節面同士がぶつかり、骨性の制限により制限されます。

ただ、回旋の動きが大きいとは言っても、腰椎へ移行する下位胸椎は腰椎と形状が近いため、椎間関節も腰椎と同じく、椎間関節が矢状化に対して並行で、回旋を制限する形状となっています。

このような構造的な特徴から、胸椎の可動域を改善したい場合

屈伸の動きを出したくなることがありますが、回旋の動きを誘導するほうが関節面の形状にあった動きだ」

と言えますね。

胸椎が屈伸に比べて回旋可動域が大きいと言いましたが、実際どれくらい大きいのかと言うと、下記の表をご覧ください。

表を見ていただくと分かるように、上位から中位胸椎までが最も回旋角度が大きく、それ以降は徐々に腰椎の形状に近づいていくため、回旋角度は減少、屈伸角度のほうが大きくなります。

中位胸椎では、おおむね前額面を向いた二つの関節面(前額面に対して約20°、水平面に対して約60°)を持ち、棘突起の尾側への傾斜の強さも合わさって屈伸の可動性が少なく、回旋の可動性が大きい形状となっています。

屈伸の可動域と比べ、回旋は約2倍もの可動域を有していることからも胸椎が回旋しやすい形状になっていることが分かりますよね。

腰椎の機能解剖とバイオメカニクス

腰椎の解剖学的な特徴としては3点あります。

腰椎は頚椎や胸椎と比べて大きな運動性と可動性を持っている

頚椎や胸椎と違い、胸郭や肋骨による制限を受けないため、その分大きな可動性を有しています。

上記の表を見ると、胸椎と比べて回旋の動きに乏しく、屈伸の動きが大きいことが分かりますよね。

腰椎は屈伸が得意で回旋が苦手!
屈伸可動域は回旋可動域の約6〜10倍!

そして、下位腰椎へいくほど屈伸の動きが大きくなることも特徴的で、これは椎間関節の構造が関係しています。

上述したように、胸椎では椎間関節が前額面と並行ですが、腰椎では矢状面と並行な向きになっており、回旋の動きは制限され、屈伸は制限されにくい構造となっています。

このような解剖学的な特徴から、

  • 腰椎は回旋の動きが苦手
  • 腰椎を主体とした過度な回旋ストレスは腰部障害を引き起こす可能性高い

と考えることができます。

頚椎や胸椎と比較して前縦靭帯・後縦靭帯が発達しており、後屈・前屈を制限する

屈伸の動きが大きいと先に言ったので矛盾しているように思えますが、可動性が大きいが故に過剰に動きすぎないように靭帯によって制動していると考えられます。

また、椎間関節が矢状面に平行なため、椎体の前方滑りに対する抵抗力が弱いので、それを制動するためにも靭帯は重要な組織です。

屈伸による各組織への影響は下記の表を参考にしてください。

腰椎には剪断力が加わりやすい

脊柱全体でみると緩くS字のカーブを描いており、頚椎は前彎、胸椎は後彎、腰椎は前彎しています。

腰椎の前彎に伴い、L5-S1で構成される腰仙関節では約35°の傾斜角度がついており、立位下では常に前下方へすべり落ちようとする力、剪断力が加わっていることになります。

この剪断力は平均的に体重の約1/2程度の負荷量がかかっているとされています。

前縦靭帯、腸腰靭帯がこの剪断力に対して制動していますが、それだけではなく「インナーユニット」の働きも重要となります。

インナーユニットは、腹横筋、横隔膜、多裂筋、骨盤底筋群の4つから構成されます。

【インナーユニットが働くことによるメリット】

  • 仙腸関節の安定
  • 腹圧の向上
  • 予測的姿勢制御

インナーユニットが働くと上記のようなメリットがあり、結果的に腰椎の安定性にも関与しています。

腰椎は大きな可動性を持つ反面、不安定とも捉えることができるので、安定性と運動性の両方の視点から考え、どのようにエクササイズを組み立てていくが重要でしょう。

ピラティスに必要な脊柱カップリングモーションを理解しよう

脊柱の運動において純粋な屈伸・側屈・回旋というものは存在しません。

椎体による形状の違いで差はありますが、回旋+側屈、回旋+屈伸(+側屈)という回旋を伴った動きとなっています。

これをカップリングモーションと言いますが、この動きを理解するために、フライエットの法則というものがあるので、まずはそれについて知っておきましょう。

【フライエットの法則】

  • 第1の法則(Type1)
    脊柱が中間位にある場合、側屈と回旋が反対方向へ起こる。
    環椎後頭関節、胸椎、腰椎がこれに当てはまる。
    ex.腰椎の右側屈時は左回旋がセット
  • 第2の法則(Type2)
    脊柱が中間位にない場合、側屈と回旋が同方向へ起こる。
    頚椎、胸椎、腰椎に当てはまる。
    ex.胸椎が屈曲位で右側屈する場合、右回旋がセット
  • 第3の法則(Type3)
    矢状面、前額面、水平面の3つの面の内、1つの面で動きがあると他の2つの面も影響を受ける。
    全ての部位に当てはまる。
    ex.頚椎が屈曲した場合、側屈と回旋もどちらかの方向へ起こる

フライエットの法則によると、脊柱の側屈と回旋はセットで起こり、中間位かそうでないかで動きが異なるということになります。

これは、椎間関節の関節面が垂直面に対して平行になっているわけではなく、わずかに傾斜しており、軸がずれた平面関節となっていることから考えられます。

例えば、胸椎の椎間関節面は上から見ると、前額面に対して約20°の角度がついていますので、関節面から外れないように動くと上位椎体が側屈するに伴って上関節面が後方へ滑る、つまり同側へ回旋します。

また、水平面に対して角度がついていることも関係しており、胸椎の場合は約60°水平面に対して傾斜しています。

例えば、完全に垂直ならその場でクルクル回旋するだけですが、角度があると下記の図のような円錐上の軌道で動くことになります。

このことから、屈伸や側屈に伴って必ず回旋が起こる構造になっていることがわかります。

一部分の椎体ではわずかな動きですが、脊柱全体となるとこの円錐がさらに伸びることになるのでかなり大きな動きになることはイメージできるでしょうか?

つまり、椎間関節一つ一つのわずかな回旋の動きがあることで、脊柱全体として大きな動きを作り出すことができているのです。

ここまでを理解すると、脊柱で問題となりやすいのは回旋制限です。なぜなら、カップリングモーションで脊柱の側屈には必ず回旋が伴うから。

屈曲や伸展でも左右どちらかに偏った動きをとる場合は回旋も含んでいます。

回旋が制限されていると考えて、なんとなく制限方向へストレッチすることによって柔軟性が改善したとしてもすぐに元に戻ることが考えられます。

みなさんも一度はこういった経験あるんじゃないでしょうか?

筋肉の固さ=関節の制限という考えで、筋肉の固さがとれたら可動域は改善するといった安易な考えではなく、筋肉が固くなったそもそもの原因があって可動域制限が出現しているので、その原因に対してアプローチしなければいけません。

この例で考えられる一つの要因としては、カップリングモーションがあるため屈伸・側屈・回旋どの方向の制限があっても回旋が制限されてしまうということ。

つまり、見かけ上回旋制限があっても、その原因は屈伸や側屈の制限が原因かもしれないということです。

ピラティスを指導する際も、回旋の動きが苦手だからと言っていきなり回旋系の運動を行うのではなく、屈伸や側屈の動きも評価した上で行わないといけません。

脊柱の屈伸・側屈には必ず回旋が伴うため、問題となりやすいのは回旋!
見かけ上の回旋制限に惑わされず、他の運動方向も評価するべき!

脊柱の解剖・バイオメカニクスのまとめ

  1. 上位頚椎は屈伸と回旋が得意。不良姿勢になると上位頚椎のトラブルが起きやすい
  2. 胸椎の上位・中位は回旋が得意
  3. 腰椎は屈伸が得意だが、剪断力が働きやすい
  4. カップリングモーションを理解すると「回旋」が問題になりやすい

脊柱を頚椎、胸椎、腰椎に分け、それぞれの解剖学的な特徴からどんな動きができるのか、どんな動きは苦手なのかを解説しました。

脊柱はそれぞれの部位で動きが異なるので、各部位の特徴を踏まえた運動を選択する必要があり、かつ脊柱として連続しているので、脊柱という大きな括りでも考えて運動を選択しないといけません。

木を見て森を見ずという言葉がありますが、木(頚椎、胸椎、腰椎)も森(脊柱全体)も見ることが大事です。

本記事で解説した内容を頭に入れておけば、正常の動きから逸脱した動きも分かるはずなので、運動中のエラーも見抜けるはずです。

もちろんすぐにできるわけではありませんが、本記事を参考に実践して行っていただければ嬉しいです!

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