ピラティスインストラクター向け!わかる!慢性腰痛のまとめ

腰痛は、ピラティスの現場でも多いトラブルの1つであり、特に慢性腰痛は適切なアプローチが必要です。

本記事では、ピラティスを用いた腰痛改善の基礎知識から、より深い知識を求める方々向けの情報まで、包括的に解説していきます。

具体的には、慢性腰痛腰痛とピラティスの関係性、ピラティスにおける注意点、そして、慢性腰痛を抱える人々に対して効果的な対策について述べます。

インストラクターの方々が、慢性腰痛を抱える方々に対して、より効果的なアプローチを提供できるよう、本記事を参考にしていただけると幸いです。

目次

慢性痛の定義

痛みは、侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、侵害可塑性疼痛の3つに分けられ、特に組織の治癒過程を過ぎても痛みが残存し、3ヶ月以上続く疼痛を慢性痛と呼びます。

これが腰に起こると、慢性腰痛ということになります。

慢性痛は上記の3つの内、侵害可塑性疼痛に含まれ、いわゆる心理的な痛みと言われるものはここに分類されることがあります。

つまり、痛みを引き起こす明らかな原因がないのに、3か月以上続いている腰痛を慢性腰痛と呼んでおり、侵害可塑性疼痛に含まれるということです。

慢性腰痛に対する運動療法

腰痛のガイドラインを見ると、慢性腰痛に対しては「運動療法」が強く推奨されています。

また、急性腰痛、慢性腰痛ともに効果のある運動として、腹横筋、多裂筋、横隔膜、骨盤底筋といったコアマッスルを中心として運動療法が挙げられています(参考文献1,2)。

なので、腰椎の安定性を高めるのは効果的な方法なのですが、安定性を高められないから腰痛を発症しているとも言い換えることができます。

そう考えると、安定性を高めるにはどうしたらいいのか?を考えないといけません。

例えば、屈曲時に腰痛が出現する場合。

屈曲時に椎間関節後方を安定させるのは靭帯や多裂筋といった後方の組織です。
この際、骨盤が後傾位だとしたら、運動連鎖で腰椎の前彎は減少し多裂筋は伸張されて収縮しにくくなります。

つまり、骨盤後傾位によって椎間関節後方の安定性が減少してしまう可能性があるということ。

反対に、伸展時に腰痛が出現する場合。

椎間関節後方での圧縮ストレス、あるいは腰椎前彎増強による脊柱起立筋のスパズムが考えられます。

一見腰椎は安定しているように見えて、不安定さを代償するための結果として起こっていることが多いです。

多裂筋や腹横筋が機能していれば、脊柱起立筋が過剰に収縮することはないですが、機能していないがために脊柱起立筋の収縮で無理やり固定的な安定を作り出しているだけです。

腰椎前彎が強いと、腹横筋は伸張されて収縮しにくくなるため、より腰椎の安定性は減少してしまう可能性があります。

このように、屈曲、伸展どちらで痛い場合においても、コアマッスルの賦活による体幹の安定性を高めることがポイントになりそうですね。

痛みの3つの側面

ただ、慢性腰痛は普通の腰痛とは少し考え方を変えなければいけません。

何故なら、慢性的な痛みは筋肉や関節の問題だけではなく、脳が関係するからです。

その理由をこれから解説していきます。

痛みは以下の3つの側面から構成されます。

  • 感覚的側面
  • 認知的側面
  • 情動的側面
Bingel U, 2008.

感覚的側面は、例えば、骨折や靭帯損傷など末梢で生じた侵害刺激のことを指します。

認知的側面は、現在感じている痛みが過去に経験した痛みと比べ、どのような意味を持つのか認識、分析することを指します。

痛みの認知が上手くいかないと、痛い足を動かすのに過剰な努力を要する、痛い腕が自分の腕のような気がしないといった、自肢の認知と自肢の運動感覚の認知能力が低下することがあります。

このようなことをNeglect like symptom(NLS)と呼びます(参考文献4)。

情動的側面は、痛みをどのように感じるか?ということを指します。

痛みに対して、怖い、不安などの不快な感情が生まれるのは、そういった情動的側面に関わる脳の領域も賦活されるからです。

・感覚的側面は、末梢で生じる侵害刺激
・認知的側面は、現在の痛みと過去に体験した痛みの比較、分析
・情動的側面は、痛みの感じ方

このように、痛みは感覚的側面だけではなく、3つの側面が互いに関係しあって痛みを作っています。

なので、例えば、腰痛がある方が座位で靴を履こうと体をかがめた際、腰痛が出るのを恐れて腰椎の屈曲があまり起こらないようにリーチしていたとして、何を考えるべきでしょうか?

身体機能ばかりに視点がいっていると、「腰椎の伸展や骨盤の前傾が足りないな。」と考え、腰椎伸展や骨盤前傾を引き出すような運動療法や徒手療法をするかもしれません。

それも間違いではないかもしれませんが、腰を曲げるという動きに恐怖心があったとすると、曲げても痛くないという体験を如何にしてするかという点の方が大事かもしれません。

痛みの抑制機構の破綻

人体には、下行性疼痛抑制という痛みを抑制する機構が備わっています。

中枢神経系は疼痛を抑制する機能を備えており、これを内因性疼痛抑制系と言います。

通常、末梢から脳へ向かう痛みの情報は脊髄後角で抑制されます。

そして、大脳からも抑制する力が働き、痛みを抑制しています。

この下降性疼痛抑制ですが、脳の中でも感情のコントールや記憶、学習、理解、推理、推測、抑制、意図、注意、判断に関わる前頭前野と関連が言われています。

活動性が低い方に対して、活動性が高い方ではこれらの機能をより使いますので、下降性疼痛抑制系が機能しやすく、痛みを抑制しやすいとも捉えることができます(参考文献5)。

ここがポイントですが、前頭前野には外側と内側があり、慢性痛を呈するような方は内側前頭前野が過活動の傾向にあることが言われています(参考文献6)。

内側前頭前野は扁桃体などの活動を抑制することで感情のコントロールに作用するのに対し、外側前頭前野は記憶や学習、理解などの認知行動に関与するとされています。

両者は互いに拮抗関係にあり、内側前頭前野が過活動に陥ると、外側前頭前野は抑制されて機能が低下してしまうのです(参考文献7)。

簡単に言うと、うつのような状態になってしまいます。

痛みの抑制機構を働かせるには

本来身体に備わっている痛みを抑制してくれる機能なので、これが働きにくい状態だと、痛みを感じやすく、どれだけ運動しても効果は表れにくいでしょう。

なので、運動を行う中でも、下行性疼痛抑制を機能させるには?という視点でも考えていくことが重要となります。

そのためのポイントが以下の4つです。

・期待感
・思考の柔軟化
・自己管理
・教育

上記に挙げた期待感を例に考えると、痛みをよく訴える方と話していると、痛みの話が多く、痛みが生活の中心になってしまっていることがしばしばあります。

痛みばかりに捉われると、自分の痛みは良くならないとか将来への期待感というものは薄れてしまいます。

なので、痛みの除去を目的化とするのではなく、現状でできそうなことに目を向け、目標を決めて取り組んでもらうことが期待感を高めることに繋がります。

ピラティスで言うと、客観的に良い姿勢に修正するとか、できなかったエクササイズをできるようになるとかが挙げられます。

それが、認知行動に関与する外側前頭前野の活性化にも繋がります。

他にも、痛みが常に一定の程度であるのではなくて日によって、一日の中でも変化があり、痛みが弱い時間もあるというように思考を柔軟化させたり、痛みのコントロールを他者に依存するのではなく、自己管理できるよう働きかけ、患者教育することが挙げられます。

あくまでも一例ではありますが、筋肉や関節の機能だけに目を向けるのではなく、痛みを抑制する脳機能についても目を向けてみると良いですよ!

適切な運動を指導する際に大事なこと

慢性腰痛をはじめ、慢性痛の方は痛みを通常より過剰に訴えることもあります。

仮に、慢性痛のせいではなくても、運動が適切ではないと運動によって痛みを誘発してしまう恐れもあります。

では、運動によって痛みが出現してしまうのはどういう場合でしょうか。

大きく分けると以下の2パターンに分けられると思っています。

・運動方法自体が間違っている
・運動の量が適切でない(負荷が強すぎる)

こちらが良かれと思って指導した運動でも正しく実施できなかったり、一見正しくできているように見えても力を入れる場所やタイミングが違うと人によっては痛みが出現する可能性があります。

負荷が強すぎるというのはイメージしやすいと思いますが、負荷が強すぎれば痛みが出現するのは当然です。

運動療法を分解すると、以下のようになります。

・運動療法実施の頻度(週にどれくらい)
・時間(1回どれくらい)
・量(1セット何回、何セットするのか)
・強度(負荷量、重さや抵抗量、どれくらいの可動範囲で動かすのか)

これらはインストラクター側で設定し、本人にとって適切な運動となるようにデザインすることができます。

何となく10回とかで回数を設定してしまうことがあるかもしれませんが、個人的には負荷量が少なすぎる場合が多いと思っています。

初回は分からないかもしれませんが、どれくらいの運動量がその人にとって適切なのかインストラクターが正しく評価しないといけません。

特に元々運動習慣がなかった方に指導する場合は注意が必要です。

そんな方に運動療法を指導すると、いわゆる筋肉痛(delayed onset muscle soreness:DOMS)が生じることがあります。

意外と抜けてしまいがちな視点ですが、これは健康な人でも生じるものなので、筋肉痛を異常な痛みと考えずに、事前に、あるいは痛みが生じた時にきちんと説明することが大事です。

ちゃんと説明しないと、悪い痛みだと思って運動を止めてしまったりすることも考えられるので、説明は大事です。

また、インストラクター側もこの辺りの痛みの考え方には注意が必要です。

例えば、腰痛の方に運動療法を指導して痛みが出現した場合。

痛みが出現した、あるいは増強したからといって運動が適切でなかったとか、組織を痛めてしまったと考えてしまうことがあります。

たった1回の運動で組織が損傷することはまずあり得ませんし、多くは関節内や筋肉の炎症反応が一時的に強まっただけと考えるのが自然です。

でも、痛みが出たら運動は止めるべきじゃないの?と思うかもしれません。

これは必ずしも正解ではありません。

運動には鎮痛効果があり、Exercise-induced hypoalgesia(以下、EIH)と呼ばれています。

上述した下行性疼痛抑制系と同じような機構です。

これはジョギングやウォーキング、サイクリングなどの有酸素運動、レジスタンストレーニング、等尺性収縮運動など、様々な運動で起こるとされています。

メカニズムとしては、以下のようなことが考えられています。

・内因性オピオイド、カンナビノイド、セロトニンによる中枢性疼痛調整機能の促通
・ドパミン産生増加による快情動の促通
・抗炎症性サイトカインの産生増加
・炎症性サイトカインの抑制

参考文献8,9,10

EIHによって、運動そのものに疼痛を緩和させる効果があるので、運動をしないことが痛みを出現させたり増強させる要因になることがあります。

なので、痛みが出たらきっぱり運動を止めるのではなく、そういった効果もあると説明し、痛みの自制内の範囲で運動を行うのが良いでしょう。

痛みは局所の組織だけで起こるわけではなく、上述したように感情や心理・社会的要因によっても増減します。

例えば、運動すると痛くなってしまうという想いが強い、運動すること自体が怖いなどの運動に対する恐怖や不安がある場合、運動によって痛みが出現すると過剰に反応してしまう恐れがあります。

ですが、この場合も「じゃあ運動はやめましょう」とするのではなく、組織に損傷が起こったわけではないということをちゃんと説明することで、運動に対する恐怖を取り除くという視点が大事です。

他にも、日中家事などで動いていると痛くなるとか、朝は大丈夫だけど夕方くらいになると痛くなるとかの場合、翌日には治っている、少し休めば良くなるのなら、それほど気にせず動いてもらう方が良いです。

そこでセラピストが動くことを制限してしまうと、かえって痛みを強くしてしまう可能性もあるので、心配するような痛みではないことを説明した上で、動いてもらうようにしましょう。

ただ、あまりにも動きすぎている場合は注意です。

痛みを訴えていても、平気で何時間もぶっ続けで畑作業をしていたり、何千歩、何万歩も歩いている方もいるので、その辺はよく聴取し、本人の身体機能と照らし合わせて考えて助言しましょう。

慢性腰痛にピラティスは効果的

ここまでの内容を踏まえ、慢性腰痛に対してピラティスは効果的な手段の1つです。

効果的な理由としては、以下の3つです。

  • 腰痛の原因になる身体の癖が分かる
  • コアマッスルが鍛えられる
  • 背骨を使う感覚が分かる

腰痛の原因になる身体の癖が分かる

最初の方で、腰椎の安定性を高められないから腰痛を発症していると解説しました。

その通りで、ご自身ではそんなつもりはなくても、無意識にスウェイバックや反り腰など偏った姿勢になっていたり、同じ運動をしても上手く筋肉を使えない場合もあります。

ピラティスでは、自分の身体に意識を集中するので、今まで気づかなかった身体の使い方に気づけるというメリットがあります。

また、インストラクターに見てもらうことで、自分では気づけない部分に気づけたり、動きの中で悪い癖を修正することができます。

「こうやって動けば痛くないな」、「これがだめだったんだ」など、自己理解や患者教育という視点からもピラティスは効果的な手段と言えるでしょう。

コアマッスルが鍛えられる

慢性腰痛ともに効果のある運動として、腹横筋、多裂筋、横隔膜、骨盤底筋といったコアマッスルを働かせる運動が言われています。

コアマッスルは、上腕二頭筋や大腿四頭筋などの関節を大きく、強く動かす筋肉とは異なり、大きな動きを起こすような筋肉ではありません。

ピラティスでは、体幹を固定して四肢を動かす、あるいは四肢を固定して脊柱を動かすなど、腹横筋や多裂筋などの等尺性収縮や求心性、あるいは遠心性収縮を行う運動が組み込まれています。

そういった運動を上手く組み合わせることで、鍛えにくいコアマッスルを刺激し、普段から働きやすい土台作りをすることができます。

背骨を使う感覚が分かる

ここまで解説した通り、慢性腰痛を発症するような方は、悪い姿勢や動きの癖を自覚していない、指摘されても修正できない方が多いです。

特に背骨は手足と違って意図的に動かそうと思っても難しい場合がほとんどでしょう。

ですが、上述したように、ピラティスでは、背骨を丸めたり伸ばしたり、捻ったり、あらゆる動きが含まれた運動を行います。

それによって、今まで使ってこなかった背骨を使う感覚が分かるようになったり、その結果、姿勢や動きが良くなって腰痛の緩和にも繋がります。

まとめ

  • 組織の治癒過程を過ぎても痛みが残存し、3ヶ月以上続く疼痛を慢性痛と呼ぶ
  • 慢性腰痛に対しては「運動療法」が強く推奨される
  • 腹横筋、多裂筋、横隔膜、骨盤底筋といったコアマッスルを中心とした運動療法が慢性腰痛に効果的
  • 痛みは感覚的側面、認知的側面、情動的側面の3つの側面から構成される
  • 慢性痛では痛みを抑制する機構が働きにくくなっている
  • 痛みの抑制機構を働かせるために重要なのが、期待感、思考の柔軟化、自己管理、教育の4つ
  • 運動療法を指導するには、運動の方法、負荷量が重要になる
  • 運動自体に痛みを抑制するEIHと呼ばれる機構がある
  • ピラティスは、動きの癖や偏った姿勢の修正、コアマッスルを働かせる、背骨を使う感覚を養うために効果的な手段

慢性腰痛は、いわゆる筋肉のコリだけが原因と言う場合は少ないので、マッサージやストレッチだけではあまり良くならないケースも多いです。

慢性腰痛の痛みに対応するためには、そもそも慢性痛とは何か?どういったメカニズムで、どんな方法が効果的ななのかを知っておかないといけません。

ピラティスはコアマッスルを働かせるためには効果的な方法の1つではありますが、痛みは感情や思考も大きく関与するので、それだけでは不十分です。

なので、インストラクターも慢性痛に対する対処法を身に付けた上でピラティスを指導すると、より高い効果を期待できるでしょう。

参考文献

1.Juliane Mueller et al : Dose-response-relationship of stabilisation exercises in patients with chronic non-specific low back pain: a systematic review with meta-regression. Sci Rep. 2020;10(1):16921.

2.Marc Karlsson et al : Effects of exercise therapy in patients with acute low back pain: a systematic review of systematic reviews. Syst Rev. 2020. 14;9(1):189.

3.Bingel U, Tracey I : Imaging CNS modulation of pain in humans. Physiology (Bethesda), 2008;23:371-80.

4.Galer B S : Case reports and hypothesis: a neglect-like syndrome may be responsible for the motor disturbance in reflex sympathetic dystrophy (Complex Regional Pain Syndrome-1). J Pain Symptom Manage, 1995;10(5):385-91.

5.Laura Frey Law et al : How does physical activity modulate pain? Pain. 2017;158(3):369-370.

6.Baliki M N : A preliminary fMRI study of analgesic treatment in chronic back pain and knee osteoarthritis. Mol Pain, 2008;4:47.

7.Baliki M N et al : Chronic pain and the emotional brain: specific brain activity associated with spontaneous fluctuations of intensity of chronic back pain. J Neurosci, 2006;26(47):12165-73.

8.Crombie KM et al : Endocannabinoid and Opioid System Interactions in ExerciseInduced Hypoalgesia. Pain Med 2018; 19:118-23.

9.Taguchi S et al : Increase of M2 macrophages in injured
sciatic nerve by treadmill running may contribute to the relief of neuropathic pain. Pain Res 2015:30:135-47(in Japanese).

10.Bobinski F et al : Interleukin-4 mediates the analgesia produced by low-intensity exercise in mice with neuropathic pain. Pain 2018; 159:437-50.

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