ピラティスインストラクター必須!変形性股関節のまとめ

変形性股関節症は、加齢によって発生する股関節疾患の1つです。

これは、先天的なものや股関節の骨・軟骨の劣化によって引き起こされ、歩行や日常生活の動作に影響を与えることがあります。

ピラティスは、身体を強化し、バランスを整えるためのエクササイズとして知られていますが、変形性股関節症を患っている人にとっては、この運動が適切かどうか不安に感じることもあるかもしれません。

この記事では、ピラティスインストラクターの皆様に、変形性股関節症についての理解を深め、安全にエクササイズを行うためのヒントを提供します。

目次

変形性股関節症の特徴

変形性股関節症(以下、股OA)は以下のように進行していきます。

前期:関節裂隙はほぼ狭小化なし、骨頭の先天的あるいは後天的な変化あり
初期:軽度〜中等度の狭小化、臼蓋の骨硬化、軽度の骨棘形成
進行期:高度の狭小化、臼蓋の骨硬化・臼蓋or骨頭の骨嚢胞、骨棘形成あり
末期:広範囲に渡る狭小化・消失、広範囲な骨硬化・巨大な骨嚢胞、重度な骨棘形
   成・臼蓋の破壊

背景に臼蓋形成不全があって、軟骨のすり減りや骨硬化、骨棘形成などの悪化によって徐々に進行していきます。

ただ、骨棘が必ずしも悪いわけではなく、疼痛の軽減に働く場合もあります。

私たちもどこか痛みがあるとそこをかばうように腰を曲げたり、肩をすくめたりしますよね。
骨棘も股関節を守るために形成されるので、その結果、骨頭が臼蓋に収まって疼痛が軽減するということも考えられます。

股OAは関節構成体の問題です。

どういうことかと言うと、ここで言う関節構成体とは股関節を構成する寛骨の臼蓋と大腿骨頭を指します。

大規模な研究結果のもと、明確な根拠が設定されているACR基準というものがあり、この中では以下の3つの内、2つ以上が該当すると股OAの診断基準を満たすとされています。

「股関節痛がある」に加えて以下の2つ以上が該当

①赤血球沈降速度20mm/時未満
②大腿骨頭あるいは寛骨臼の骨棘形成
③関節裂隙の狭小化

Altman R, 1991.

また、股OAの病態として、骨形態の特徴も報告されています。
報告されている特徴としては、以下の4つです。

・前捻角が大きい
・頚部長が短い
・骨頭の前上方被覆面積が減少
・腸骨翼前方開角の異常

参考文献2~5

このように、大腿骨頭側、骨盤側の両方の骨形態異常が背景にあり、それによって先に述べた3つの診断基準を満たすと股OAと診断されます。

大腿骨の骨折なんかは、あくまでも骨折であって、骨折によって骨折部が短縮したりすることはありますが、骨形態に異常があるわけではありません。

なので、股OAの特に保存療法では骨形態の異常が前提にあって、それを補うための代償的な姿勢や股関節アライメント、動作となることを理解しておく必要があります。

安易に股関節アライメントへ介入することで、かえって疼痛を強くしてしまう可能性もあるからです。

変形性股関節症に対するエビデンス

股OAのガイドラインによると、股OAに対して高いエビデンスがあるとされているのが以下の内容です。

<Flexibility,Strengthening,and Endurance Exercise>
・股関節可動域制限や筋短縮、筋力低下に対して個別の柔軟性、筋力、持久力改善運動を用いるべき
・グループでの運動療法では、対象者の最も重要な問題に対処するための運動を処方するようにすべき
・運動療法の頻度と期間は、軽度から中等度の股関節症患者では、1~5回/週、6~12週間は実施すべき

<Manual Therapy>
・軽度から中等度の股関節症患者に対しては、可動域制限や柔軟性低下、疼痛に対して徒手療法を用いるべき
・頻度と期間は、軽度から中等度の股関節症患者では、1~3回/週、6~12週間は実施すべき
・股関節の動きが改善するにつれて、可動域や柔軟性、筋力を維持・改善するためにストレッチングや筋力強化運動を加えていくべき

<変形性股関節症に対する患者教育の効果は?>
・変形性股関節症に対する患者教育は、病識の向上などに有用で行うべきである

ピラティスが提供できるのは主に運動ですが、これを参考にすると、

週1~3回は外来リハを実施し、1か月~3か月は継続しましょう

と提案することができます。

具体的な頻度と期間をこちらから提示することで、いつまで通わなくてはいけないのかという先が見えない不安は軽減しますし、少なくともこの期間は頑張ろうと意欲を高めるうえでも有効だと思います。

変形性股関節症の特徴的な姿勢アライメント

上述したような特徴的な骨形態から、股OAでは以下の姿勢アライメントを呈することが多いです。

前捻角が大きい→股関節内旋、下腿外旋
骨頭の前上方被覆面積が減少、腸骨翼前方開角の異常→骨盤前傾、骨盤同側傾斜

正常では、大腿骨頭は骨頭が前を向くように前捻角がありますが、股OAでは前捻角が大きい傾向にあります。

そのままでは、臼蓋から骨頭が大きく外れてしまいますので、股関節を内旋位にすることで、骨頭を内側へ向けるように代償します。

また、前捻角が大きいことに加えて、骨頭前上方の被覆面積の減少や腸骨翼の異常により、骨頭の前上方の骨性の支持力が弱い状態です。

なので、骨頭被覆面積を増やしより股関節を安定させるために、骨盤を前傾・同側傾斜して代償します。

これらによって、股関節の安定性を高める戦略をとっているので、外旋制限や伸展制限があるからといって、安易にストレッチなんかするとかえって痛みを強くしてしまう恐れがあるのです。

逆に言えば、痛みが強い場合、股関節内旋や骨盤前傾による代償ができていないから痛いということも考えられます。
保存療法の場合、既存の身体機能・能力で疼痛を軽減するような代償ができないか?を考えてみましょう。

変形性股関節症の痛みの原因

股OAの病態から考えると、以下のことが予測されます。

・関節内あるいは周囲での炎症
・関節包のインピンジメント
・筋スパズム
・筋肉の伸張痛

股OAに限った話ではありませんが、運動器系の疼痛の大部分は炎症、摩擦・圧迫、伸張の3つが主な原因となっています。

神経系や心理社会的な要因も絡み合っていますが、ここではあくまでも患部で起こっている痛みを考えます。

そもそも、股OAは股関節の適合性が低いので、骨同士、骨と軟部組織が摩擦によるストレスを受け、それによる炎症が起こります。

炎症が起こると、関節内圧の上昇が起こり、関節内がパンパンに腫れている状態での股関節運動によって痛みが起こることも考えられます。

さらに、股関節の適合性を高めるためにどうしても偏ったアライメントになります。

それによって、過緊張を呈する筋肉には筋スパズムが起こる可能性がありますし、それを伸ばす動きが加われば伸張痛が起こる可能性も考えられます。

なので、シンプルに硬い筋肉を伸ばすというだけでは不十分なので、どうしたらよいか?という部分を考えていかなくてはいけません。

股関節痛は骨盤と大腿骨の位置関係がポイント

ここでは股関節の前方が痛い場合、後方が痛い場合について解説します。

股関節の前方が痛い場合

股関節の前方が痛い場合、骨頭の前方でインピンジメントしていることが予測されます。

肩関節と股関節は似ているのですが、股関節の後方組織が緊張すると骨頭が前方へ押し出されます。
構造的に骨性の支持が骨頭の前方にはないので、前方へ偏位しやすいのです。

骨頭が前方偏位すると、屈曲する際は本来骨頭が後方へ滑るはずですが、それができません。
なので、臼蓋の前方と骨頭がぶつかる、インピンジメントするので痛みが起こるというわけです。

しゃがみ込みで痛い方なんかはインピンジメントが起こっている可能性が高く、特にしゃがみ込みでは骨盤が後傾しやすいので、骨頭被覆率は低く、より痛みを起こしやすいと言えるでしょう。

なので、病期によって積極的にしゃがみ込みすべきではなく、動作指導が重要となります。

股関節後方が痛い場合

後方が痛い場合は軟部組織による問題が大きい印象です。

骨盤は前傾、股関節は内旋しやすい傾向にあるので、後方の股関節伸筋、外旋筋群は持続的に伸張された状態になります。

その状態で被覆率を高めようと、骨盤前傾・股関節内旋すると後方組織は伸張され、伸張痛を起こす場合があります。

また、後方組織が緊張あるいは短縮すると、股関節は屈曲制限を起こします。

上記のしゃがみ込みもそうですが、座位でも股関節は屈曲位となり後方組織は伸張され続け、それによって伸張痛を起こす可能性も考えられます。

骨盤と大腿骨頭の評価

股関節痛は骨盤と大腿骨の位置関係が重要なので、実際に評価して骨盤と大腿骨の関係がどうなっているかを把握した上で運動を組み立てていくべきです。

例えば、座位で見かけ上、体幹が左へ傾いている方に対して、姿勢の影響で股関節痛が出ていると仮説を立てたとして、姿勢を改善するためにどこから介入しますか?

原因は骨盤かもしれないし、腰椎かもしれないし、股関節かもしれない。

原因をつきとめるためには評価をしなければいけません。

骨盤に関して言えば、まずは以下のランドマークを触診してください。

・上前腸骨棘
・恥骨結合
・坐骨結節

恥骨結合に関しては異性の触診をする場合は配慮して、一声かけるなり、相手の手の上から触れるなりしてください。

まず、前額面から骨盤を見た場合、上前腸骨棘と恥骨結合を結ぶ線の真ん中辺りに骨頭がきます。

つまり、骨頭に対して上前腸骨棘が引かれれば骨盤は下制、恥骨結合側が引かれれば骨盤は挙上することになります。

例えば、上前腸骨棘に付着する大腿筋膜張筋は股関節屈曲・外転・内旋の作用を持ちます。

骨盤に対して、股関節を伸展・内転・外旋した際の抵抗感、骨盤がどれくらいついていくるかを他の筋肉を伸張した場合と比較します。

上前腸骨棘に付着するのは、中殿筋、縫工筋がありますので、それらを伸張した場合と大腿筋膜張筋の場合とを比較します。

明らかに大腿筋膜張筋で骨盤がついてくる感じがあれば、それによって骨盤が下制している可能性があります。

また、骨盤下制側では腸脛靭帯が遠位へ、恥骨結合に付着する薄筋や長内転筋が近位へ動きますので、それに伴って下腿は内側へ移動します。

反対に挙上側では下腿は外側へ移動します。

これも合わせて見ると、より評価の妥当性があると思います。

矢状面で見ると、上前腸骨棘と坐骨結節を結ぶ線の真ん中辺りに骨頭がきます。

前額面の時と同じ考え方で、骨頭に対して上前腸骨棘が引かれると骨盤は前傾、坐骨結節が引かれると骨盤は後傾します。

例えば、ハムストリングスは坐骨結節に付着し、股関節伸展の作用を持ちます。

股関節屈曲した際の抵抗感、骨盤がどれくらいついてくるかを他の筋肉を伸張した場合と比較します。

坐骨結節に付着するのは、大内転筋があります。

大内転筋は股関節内転・伸展に作用するので、股関節外転位で屈曲した際の抵抗感と比較します。

また、端坐位で足底をつけずに座ってもらった時の膝の高さも指標の1つになります。

骨盤後傾位では、膝が高くなるので、左右で比較して評価します。

これらの評価を総合的に解釈し、骨盤と大腿骨頭の位置関係がどうなっているのかを立体的に評価しましょう。

股関節の深層筋群と骨頭位置の関係

股関節を矢状面から見ると、腸腰筋は骨頭の前面を走行し、中殿筋が大転子の上方から後面にかけて付着しており、上後方関節包にも付着しています。

腸腰筋に関しては、骨頭が前方へ偏位したら筋張力で後方へ戻すような作用が働くので、股関節において腸腰筋は骨頭を適切な場所へ保持してくれる重要な筋肉と言えます。

また、関節包に付着する中殿筋が収縮すると関節包は牽引され、関節包が緊張します。
それによって、関節包が付着する骨頭は牽引される方向へ誘導されるのです。

つまり、こちらは筋張力ではなく、関節包の緊張を介して間接的に骨頭を誘導する作用があるということです。

他にも中殿筋のような筋群があり、以下に挙げています。

腸骨関節包筋(Iliocapsularis)
大腿直筋(Rectus femoris)
内閉鎖筋(Obturator internus)
外閉鎖筋(Obturator externus)

また、腸腰筋を始め、内閉鎖筋や外閉鎖筋といった深層筋群は関節包の緊張を作る作用だけでなく、遅筋繊維の割合が高く、筋紡錘が非常に多いという特徴もあります。

これは骨頭の位置が偏位すると、骨頭のすぐ側にある深層筋群にも緊張が加わり、筋紡錘に感覚が入力されるので、その情報をもとに骨頭位置をコントロールしようとする反応が生まれます。

豊富な筋紡錘を有しているという特徴は、感覚器としての役割も備えているのです。

変形性股関節症には脊柱・骨盤の動きが重要

股OAの本質を考えると、臼蓋形成不全が背景にあるので、積極的に股関節自体の動きを出していくことは難しいです。

なので、脊柱と骨盤の動きを獲得していく、コントロールできるようにすることが重要です。

以下の4つの観点から脊柱・骨盤の動きは重要です。

・運動連鎖による股関節運動
・骨頭被覆面積の増大
・退行性変化による骨盤、脊柱可動性の低下
・体幹筋と四肢の関係から考える股関節筋群の緊張緩和

視点を変えると、大腿骨を屈曲しても股関節屈曲ですが、骨盤を前傾させても股関節屈曲です。

大腿骨を動かすと痛みを強めるリスクもありますが、骨盤から動かすと比較的痛みが少なく、かつ股関節運動を行うことができ、股関節の可動性は保たれます。

骨盤前傾、同側傾斜、同側回旋によって、骨頭に対して臼蓋の被覆面積を増やすことができます。

骨盤の可動性が十分にあることは股関節の適合性を高めるためにも重要です。

比較的若い方で股OAがある方は、腰椎を過前彎させて骨盤を前傾させることで、骨頭被覆率を高める戦略をとっている場合が多いです。

このような方は、腰椎や骨盤を固めて固定的に代償しているので、二次的に腰痛を引き起こしたり、股関節自体の可動性は低くなってしまう恐れがあります。

腰椎や骨盤の可動性も低く、色々な姿勢や動作に柔軟に対応することは難しいでしょう。

また、体幹の可動性が低く、体幹筋の筋力低下が起こっている場合が多く、その代償として四肢の筋緊張が高まっていることがあります。

四肢から見ると体幹は身体のより近位部で、言わば土台としての役割もあります。

体幹が安定することで、四肢が過剰に緊張することなく運動できるので、体幹筋を働かせることで脊柱、骨盤のコントロールができることが重要です。

まとめ

  • 股OAは軟骨のすり減りや骨硬化、骨棘形成などの悪化によって徐々に進行するが、必ずしも悪いわけではなく、痛みの緩和に働く場合もある
  • 特に保存療法では骨形態の異常が前提にあって、それを補うための代償的な姿勢や股関節アライメント、動作となる
  • 軽度~中等度の股OAに対して、運動療法、徒手療法、患者教育はエビデンスレベルが高い
  • 股OAの特徴的なアライメントとして、股関節内旋・下腿外旋、骨盤前傾・同側傾斜となることが多い
  • 運動器系の疼痛の大部分は炎症、摩擦・圧迫、伸張の3つが主な原因
  • 股関節前方の痛みは股関節前方でインピンジメントしている可能性がある
  • 股関節後方の痛みは後方軟部組織の伸張痛である可能性がある
  • 痛みの原因を評価するには、骨盤と大腿骨頭の位置関係を触診して確認することが重要
  • 腸腰筋、中殿筋、大腿直筋、内閉鎖筋、外閉鎖筋、関節包は骨頭を安定した位置に保持する役割を持つ
  • 股OAの本質は臼蓋形成不全なので、積極的に股関節運動を行うというよりは骨盤や脊柱の動きが重要

股OAは先天的なものにしろ、二次的なものにしろ、軟骨のすり減りや骨硬化、骨棘などの構造的な問題が背景にあるため、それを根本から解決するには手術しかありません。

ですが、股関節の構造の理解や関連する筋肉の機能、役割を理解しておくことで、悪化させない、痛みを緩和するということは可能です。

特に股関節は骨盤や脊柱による代償作用が重要で、ピラティスは骨盤や脊柱の動きを含む運動も多くあるので、クライアントに適した運動を提供することで、効果を出すことは十分に可能です。

本記事を参考に運動する上でどういったことが大事なのかを知識としてつけた上で、ピラティスを実践していただければと思います。

参考文献

1.Altman R et al : The American College of Rheumatology Criteria for the Classification and Reporting of Osteoarthritis of the Hip. Arthritis Rheum. 34:505-14. 1991.

2.三浦 利則 ほか : 日本人変形性股関節症の大腿骨形態計測. 日臨バイオメカ会詩. 19:177-81:1998.

3.Three-dimensional shape of the dysplastic femur : implications for THR. Clin Orthop Relat Res. 417:27-40:2003.

4.久米田 秀光 ほか : 成人寛骨臼不全股の骨形態の特徴Inward Wing CT像について. 臨床外 21:67-75:1986.

5.Fujii M et al : Pelvic deformity influences acetabular version and coverage in hip dysplasia. Clin Otrhop Relat Res. 469(6):1735-42:2011.

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