ピラティスで骨盤の傾きやねじれを評価しようにも、どうしたら良いか分からない。
とりあえず、ピラティスの形は指導しているが、骨盤の個別の評価が上手くできないので、思ったように効果が出ないことがある。
このような悩みありませんか?
骨盤は下肢と体幹の間に位置し、下肢にも体幹にも大きな影響を与える身体の中でも重要な部位です。
なので、ピラティスにおいても骨盤に対する運動は必須と言えますが、意外と骨盤の傾きやねじれ、動きは複雑なので、難しく悩むのも分かります。
そこで、本記事では骨盤を構成する関節や靭帯、筋肉の機能解剖、バイオメカニクスを解説します。
本記事を読み進めていけば、骨盤の基本的な触診やアライメント、動きの評価ができるようになるので、どういった運動をピラティスで組み込むべきかもイメージしやすくなるはずです。
骨盤の骨の触り方をyoutubeで学ぶ
骨盤の機能解剖
骨盤は1つの骨ではなく、以下の3つの骨から構成されています。
- 仙骨
- 寛骨(腸骨、恥骨、坐骨)
- 尾骨
骨盤の動きを評価、あるいは骨盤の動きを引き出していくには、仙骨と寛骨の機能解剖とバイオメカニクスを考える必要があります。
仙腸関節の機能解剖
仙腸関節の関節面は耳状面と呼ばれ、その名の通り、耳のような形状をしています。
仙骨と寛骨の耳状面は完全に一致しており、わずかに滑り運動を可能としています。
この関節面は人によって個体性があると言われており、凸面と凹面が反対になっていたりする場合もあったりと形状は人それぞれ様々です。
形状が違うと動きも変わってくるため、教科書的に当てはめず、人に合わせて触診によって確認していく作業が必要になります。
ただ、そもそも正常な動きを知らないと、その動きが正常なのかイレギュラーなのか判断することもできないので、機能解剖とバイオメカニクスを理解することが大事になります。
関節は細かい溝や隆起が多く、楔形の構造に加え、広範囲に存在する靭帯によって安定化が図られています。
仙腸関節に関わる主な靭帯は以下の3つです。
- 腸腰靭帯
- 前仙腸靭帯
- 後仙腸靭帯
これらの靭帯によって仙腸関節は固定性を高め、過剰な可動性を抑えられています。
仙腸関節に直接作用して動かす筋肉は存在しませんが、胸腰筋膜と大殿筋による機能的な筋連結、梨状筋によって動的な安定化が図られていると考えられています。
恥骨結合の機能解剖
恥骨結合は仙腸関節の動きの支点となりますので、あまり意識されないかもしれませんが、ここの構造もおさえておく必要があります。
恥骨結合も靭帯によって安定が図られており、主に関わるのは以下の2つです。
- 上恥骨靭帯
- 恥骨弓靭帯
仙腸関節と異なる点は、恥骨には筋肉が直接付着しており、腹直筋と内転筋群によって恥骨結合の安定化が図られています。
恥骨結合の運動性に関しては、3つの運動軸が存在しています。
- 矢状軸
- 前頭軸
- 縦軸
これら3つの軸を支点に運動が起こります。
この3つの軸によって歩行時には推進、回旋運動、ジャイロ運動が起こります。
骨盤に関わる靭帯の機能解剖
仙腸関節、恥骨結合に関わる靭帯は既に解説しましたが、中でも骨盤に関わる靭帯で重要なのが以下の2つです。
- 仙結節靭帯
- 後仙腸靭帯
この2つが何故重要なのかと言うと、仙結節靭帯はハムストリングスと、後仙腸靭帯は多裂筋とそれぞれ機能的に連結しており、仙骨の動きを制限するからです。
例えば、仙結節靭帯は仙骨と坐骨結節を繋ぐ靭帯なので、仙骨の前傾を制限します。
さらに、ハムストリングスとの連結があるので、ハムストリングスの柔軟性が低下すると仙結節靭帯を介して仙骨は後傾方向へ引かれます。
対して、後仙腸靭帯は腸骨と仙骨を繋ぐ靭帯で、仙骨の後傾を制限します。
多裂筋と連結があるので、多裂筋の柔軟性が低下すると後仙腸靭帯を介して仙骨は前傾方向へ引かれます。
結果的に、仙骨の前傾・後傾を制限してしまう要因になるので、上記の2つの連結は覚えておきましょう。
仙腸関節のバイオメカニクス
仙腸関節の動きを理解する上で重要な概念がニューテーションとカウンターニューテーションです。
ニューテーションは仙腸関節が締まりの肢位で、カウンターニューテーションは緩みの肢位を表しています。
【ニューテーション】
- 仙骨前傾(寛骨の相対的な後傾)
- 寛骨前傾、インフレア(PSISが近づく)、外転(腸骨稜が近づき、恥骨結合が離れる)
- 仙腸関節より内側にある後仙腸靭帯、坐骨結節から先行へ走行する仙結節靭帯がストレスを受ける
- 仙腸関節の締まりの肢位(close-packed-position:CPP)
【カウンターニューテーション】
- 仙骨後傾(寛骨の相対的な前傾
- 寛骨後傾、アウトフレア(ASISが近づく)、内転(腸骨稜が離れ、恥骨結合が近づく)
- 仙腸関節より外側にある長後仙腸靭帯がストレスを受ける
- 仙腸関節の緩みの肢位(loose-packed-position:LPP)
基本的には座位や立位など運動中あるいは運動の準備としてニューテーションとなり、臥位などそれほど安定性を必要としない姿勢ではカウンターニューテーションとなります。
なので、どの姿勢で疼痛が出現するのか、筋力が発揮しにくいのかは重要な評価の1つです。
例えば、立位で疼痛が出現するのなら、仙腸関節がカウンターニューテーションで緩みの肢位となっていないか?
臥位で出現するのなら、ニューテーションとなっていないか?など。
また、ニューテーションとカウンターニューテーションのどちらへ誘導すると疼痛が出現するのか、筋力が発揮しやすくなるのかも評価しておくべきです。
疼痛がなくても、立位が不安定な方では、仙腸関節がカウンターニューテーションしているから安定しないのか?
臥位で起居動作が上手くいかない方では、ニューテーションしているから分節的な動きが制限されているんじゃないか?といった視点もあると、評価がスムーズにいく場合もあります。
骨盤の触診
実際に姿勢や動きを見ると、骨盤が傾いていると感じる場面は多々あります。
ただ、見て判断するだけではなく、実際に触って確かめないと、本当に骨盤自体が傾いているのか、腰椎あるいは股関節が影響しているのか。
これを評価しないことには、安易に骨盤が傾いているとは言えません。
骨盤に関して言えば、まずは以下のランドマークを触診してください。
- 上前腸骨棘(ASIS)
- 上後腸骨棘(PSIS)
- 恥骨結合
- 坐骨結節
注意点として、恥骨結合に関しては異性の触診をする場合は配慮して、自分自身で触ってもらうか、一声かけて相手の手の上から触れるなりしてください。
まず、前額面から骨盤を見た場合、上前腸骨棘と恥骨結合を結ぶ線の真ん中辺りに大腿骨頭があります。
上前腸骨棘側に偏れば骨盤は下制、恥骨結合側に偏れば骨盤は挙上することになります。
例えば、上前腸骨棘に付着する大腿筋膜張筋は股関節屈曲・外転・内旋の作用を持ちます。
骨盤に対して、股関節を伸展・内転・外旋した際の抵抗感、骨盤がどれくらいついていくるかを他の筋肉を伸張した場合と比較します。
上前腸骨棘に付着するのは、中殿筋、縫工筋がありますので、それらを伸張した場合と大腿筋膜張筋の場合とを比較します。
明らかに大腿筋膜張筋を伸張した時に骨盤がついてくる感じがあれば、それによって骨盤が下制している可能性があります。
矢状面で見ると、上前腸骨棘と坐骨結節を結ぶ線の真ん中辺りに骨頭がきます。
前額面の場合と同様に考え、上前腸骨棘側に偏ると骨盤は前傾、坐骨結節側に偏ると骨盤は後傾します。
例えば、ハムストリングスは坐骨結節に付着し、股関節伸展の作用を持ちます。
股関節屈曲した際の抵抗感、骨盤がどれくらいついてくるかを他の筋肉を伸張した場合と比較します。
ハムストリングス以外に坐骨結節に付着するのは、大内転筋があります。
大内転筋は股関節内転・伸展に作用するので、股関節外転位で屈曲した際の抵抗感と比較します。
また、端坐位で足底をつけずに座ってもらった時の膝の高さも指標の1つになります。
骨盤後傾位では、膝が高くなるので、左右で比較して評価します。
仙腸関節の動きの評価
仙腸関節の動きを評価する前に、どういった動きがあるのかを知っておきましょう。
基本的には、仙骨に対する寛骨の動きと寛骨に対する仙骨の動きの2つを考えることになります。
仙骨に対する寛骨の動きとしては、以下のようなものがあります。
- インフレア:左右のPSISが近づく
- アウトフレア:左右のPSISが離れる
- 外転:坐骨結節が離れる
- 内転:坐骨結節が近づく
- 前傾:仙骨に対して寛骨が前に傾く
- 後傾:仙骨に対して寛骨が後ろに傾く
仙腸関節の動きとしては諸説ありますが、その人の今の状態を評価することが大事です。
ポイントとしては、仙骨に対するPSISの位置関係を評価することで、股関節も含めた骨盤帯の立体的な構造をイメージしやすくなります。
寛骨の動きのパターンとしては、主に以下の4つに分類され、それぞれ対応する動きを知っておきましょう。
骨盤のアライメントから偏位を評価した上で、実際に動くとどう変化するのかを評価するまでをセットで考えましょう。
寛骨に対する仙骨の動きとしては、以下の3つあります。
- 前傾
- 後傾
- 回旋
さらに細かく評価するには仙骨溝(SS)と仙骨下外側角(ILA)の関節溝の深さや位置を評価します。
SSとは、第1仙椎の左右にあるくぼんだ部分のことを指します。
触診は後ろから見て左右の腸骨綾の上端を結んだ線上に第4腰椎の棘突起がくるので、そこから下へ第5腰椎の棘突起、第1仙椎の棘突起と順に辿っていき、棘突起の左右のくぼみを探します。
ILAとは、仙骨下外側の骨の出っ張りのことで、触診は尾骨から触って仙骨の下方から外側へ向かっていった時に最も外側にある部分を探します。
上記の表によると、例えば、左のSSとILAが深く、右のSSとILAが浅い場合は、仙骨が左回旋していることを表しています。
右のSSが深く、右のILAが左と比べて後下方にある場合は、仙骨が右へ傾斜し、かつ左へ回旋していることを表しています。
理想的な骨盤とは
ケースバイケースではありますが、骨盤帯において理想的な位置とは、締まりの肢位(CPP)です。
骨盤における締まりの肢位は、仙骨がニューテーションし寛骨が前傾している状態です。
上述しましたが、仙腸関節をまたいで作用する筋肉は存在しませんので、仙腸関節を締めるには、仙骨と寛骨を連結する靭帯が重要となります。
なので、靭帯の緊張を高めることがポイントですが、そのためには腹横筋の収縮による骨盤が正中へと近づく作用が働くと靭帯の緊張も高まり、仙腸関節は締まりの肢位へ誘導されます。
他には、胸腰筋膜と大殿筋による後部斜方向安定化システムの機能によって仙腸関節をまたいで締める方向へ力が働きます。
これは、広背筋→胸腰筋膜→対側の大殿筋といった連結のことを指します。
また、上述したハムストリングスや多裂筋など、靭帯と連結する筋肉の作用も重要です。
骨盤の触診や動きを見た上で、ニューテーションへ誘導するにはどこの靭帯の緊張が高まる必要があるのか、どこの筋肉が働く必要があるのかを考えないといけません。
ただ、必ずしもニューテーションへ誘導するのが良いわけではなく、カウンターニューテーションへ誘導した方が良い場合もあるので、あくまで臨機応変に対応しましょう。
まとめ
- 仙腸関節、恥骨結合の機能解剖
- 骨盤に関わる重要な靭帯と筋肉の連結
- 仙腸関節のバイオメカニクス
- 骨盤の触診におけるポイント
- 仙腸関節の動きの評価
- 理想的な骨盤
本記事では、これらについて解説しました。
骨盤は一塊で考えてしまいがちですが、実は関節があり、それらに関わる靭帯や筋肉がある複雑な部位です。
ですが、本記事の内容まで掘り下げて触診や評価をすると、今まで漠然としていたものがより具体的にイメージできるはずなので、ピラティスにも必ず活きてきます。
ぜひ本記事の内容を参考にピラティスに役立ててください。