姿勢には、その人の普段からの身体の癖、動きの癖が現れます。
人それぞれ全く同じ姿勢をしているということはなく、人の数だけ姿勢の数があります。
ただ、全く同じ姿勢はなくても、ある程度近い姿勢の人はいて、それらをパターン化して考えることができます。
そういったパターン化された姿勢の特徴と筋肉のバランスを知っておけば、ピラティスで運動指導する際にも絶対に役立ちます。
全く0から考えるのと、ある程度ヒントがある状態から考えるのでは、絶対に後者の方が結果が出やすいですよね。
そこで、今回は姿勢を3つに分類し、それらの特徴と筋肉のバランス、各姿勢の共通点、運動指導する際の注意点を解説していきます。
姿勢評価を動画で学ぶ
3つの姿勢分類と筋バランス
姿勢の評価をするには、そもそもどんな姿勢の種類があるのかを理解しておかなければいけません。
よく用いられるのはケンダルの姿勢分類で、それによると通常姿勢と3つの異常姿勢に分類されます。
- ノーマル
- カイホロードシス
- フラットバック
- スウェイバック
まずはこれらの姿勢がどんな姿勢なのか、どんな特徴があるのかを知ることで、実際にクライアントの姿勢と比べてどうなのかを判断することができます。
なので、それぞれの姿勢について解説していきます。
ノーマル
矢状面、前額面それぞれで重心線の位置が以下の場所を通過できている状態が理想的な姿勢です。
【矢状面】
- 耳たぶの後方
- 肩峰
- 大転子
- 膝関節の前方
- 外果の前方
【前額面】
- 後頭隆起
- 椎骨棘突起
- 殿裂
- 両膝関節内側の間
- 両内果の間
これが脊柱の生理的彎曲が過不足なく、適度な彎曲が保たれている状態です。
下記に続く異常姿勢を評価する際は、このノーマルの姿勢を基準として比べた時にどうなのかと考えるようにしましょう。
基準が曖昧だと評価も正確ではなくなってしまうので注意しましょう。
カイホーシスロードシス(彎曲増強型)
この姿勢の特徴的なアライメントは以下の通りです。
【特徴的なアライメント】
- 頭部前方偏位
- 肩甲骨外転
- 胸椎の後彎増強
- 腰椎の前彎増強
- 骨盤前傾
- 股関節屈曲
- 膝関節過伸展
腰椎前彎増強による反り腰と胸椎後彎増強によるいわゆる猫背が合わさった姿勢です。
骨盤前傾の増強に伴って腰椎の前彎も増強し、相対的に胸椎の後彎も増強するので、反り腰と猫背が合わさった姿勢となります。
腰椎と胸椎の移行部が彎曲のギャップが大きいので、特にストレスがかかりやすく腰痛を引き起こす可能性があります。
この姿勢は現代人にはあまり見られません。
何故なら、デスクワークが多かったりとか骨盤前傾になりにくい生活をしている方が多いからです。
立ち仕事が多い人、姿勢の良いヨガインストラクターやモデルの人なんかに多いかもしれません。
この姿勢の筋肉の特徴は以下の通りです。
【弱化しやすい筋肉】
- 僧帽筋下部繊維
- 菱形筋群
- 腹筋群
- 大殿筋
- ハムストリングス
【短縮しやすい筋肉】
- 大胸筋
- 脊柱起立筋
- 腸腰筋
フラットバック(脊椎平坦型)
この姿勢の特徴的なアライメントは以下の通りです。
【特徴的なアライメント】
- 頭部前方偏位
- 上部胸椎の後彎
- 下部胸椎の平坦化
- 腰椎の前彎減少
- 骨盤後傾
- 股関節の過伸展
- 膝関節の過伸展
- 足関節の軽度底屈
一般的な脊椎の脊柱の生理学的彎曲は、頚椎が前彎、胸椎が後彎、腰椎が前彎しています。
フラットバックは、そんな生理学的彎曲が失われ、頚椎は前方変異に伴う屈曲、胸椎後彎の減少、腰椎前彎の減少によって、脊柱が全体的に平坦化し骨盤は後傾した状態を指します。
脊柱の彎曲が失われているので、生理的彎曲による衝撃吸収、あるいは分散能力も弱くなっています。
脊柱は生理的彎曲によって、身体内外から加わる衝撃を和らげてくれますが、それが失われているということは、本来より大きな負担が身体に加わっているということになります。
この姿勢の筋肉の特徴は以下の通りです。
【弱化しやすい筋肉】
- 腸腰筋
- 脊柱起立筋
- 僧帽筋下部繊維
【短縮しやすい筋肉】
- 腹筋群
- 大胸筋
- ハムストリングス
- 大殿筋
スウェイバック
この姿勢の特徴的なアライメントは以下の通りです。
【特徴的なアライメント】
- 胸椎の後彎
- 腰椎の平坦
- 骨盤後傾+前方偏位
- 股関節過伸展
- 膝関節過伸展
骨盤が後傾と前方偏位することで、骨盤が重心線よりも前方にずれてしまい、腰椎の前彎は減少し腰椎全体が身体の後方へ傾斜するような形となります。
それに対して、胸椎でバランスを取るので胸椎の後彎が増強し、猫背と頭部が前方に出たヘッドフォワードポスチャーと呼ばれる状態になります。
この姿勢は現代人に非常に多く、スマホやパソコン作業によって顔を下へ向けてしまう人がほとんどだからです。
この姿勢の筋肉の特徴は以下の通りです。
【弱化しやすい筋肉】
- 僧帽筋下部繊維
- 腹筋群
- 腸腰筋
- 脊柱起立筋
【短縮しやすい筋肉】
- 大胸筋
- 腹筋群
- ハムストリングス
- 脊柱起立筋
上位交差性症候群の特徴と筋バランス
上位交差性症候群とは、頚部・肩甲帯周囲の筋群の短縮と伸張が対角線上に交差するように生じている不均衡な筋バランスの総称を指します。
上記の姿勢分類を見ると、共通点としてこの上位交差性症候群になっている場合が多く、頭部が前方に出たヘッドフォワードポスチャーと呼ばれる状態になっています。
座る時間が長いこと、スマホやパソコンを触る時間が長くなったことが要因の1つですが、ほとんどの姿勢でヘッドフォワードポスチャーとなる以上はしっかりと評価できないといけません。
まず、簡単にヘッドフォワードポスチャーの特徴を以下にまとめました。
- 上位頚椎過伸展
- 下位頚椎屈曲位
- 胸椎の後彎増強
- 肩峰よりも前方に耳が位置する
- 肩甲骨が外転位
- 骨盤が後傾しやすい
この特徴を元に、ヘッドフォワードポスチャーを修正するには、下記の3つの部位の筋バランスについて理解し、評価する必要があります。
頚椎の前面
上位頚椎が過伸展、下位頚椎が屈曲位を呈しているので、頚椎前面の筋肉の上位頚椎では伸張され、下位頚椎では短縮しています。
なので、下位頚椎のアライメントを伸展方向へ修正した上で、頚椎前面の筋肉を働かせ、上位頚椎を屈曲させることが必要です。
頚椎前面では、以下の筋群の起始と停止、走行を理解しておくことがポイントです。
- 頚長筋
- 胸鎖乳突筋
- 広頚筋
- 舌骨上筋群(オトガイ舌骨筋、顎舌骨筋、顎ニ腹筋、茎突舌骨筋)
- 舌骨下筋群(甲状舌骨筋、胸骨舌骨筋、肩甲舌骨筋、胸骨甲状筋)
あまり聞かない舌骨筋群というマイナーな筋肉も含まれていますが、これもかなり大事な筋群なので、チェックしておきましょう。
ヘッドフォワードポスチャーの上位頚椎過伸展、下位頚椎屈曲位のアライメントとなると、顎が下へ引かれて口が開きやすくなります。
なので、顎周りの筋群にも大きな影響があるため、舌骨筋群もマイナーですが知っておくべきです。
頚椎の後面
上位頚椎が過伸展、下位頚椎が屈曲位を呈しているので、頚椎の前面とは反対に頚椎後面の筋肉は、上位頚椎では短縮し、下位頚椎では伸張されています。
なので、上位頚椎のアライメントを屈曲方向へ修正した上で、頚椎から胸椎後面の筋肉を働かせ、下位頚椎を伸展させることが必要です。
上述した内容と合わせて、頚椎前面と下位頚椎から胸椎にかけての筋肉の協調的な筋活動が必要で、どちらか一方では不十分ということです。
頚椎後面では、以下の筋群の起始と停止、走行を理解しておくことがポイントです。
- 頭・頚部半棘筋
- 頭・頚板状筋
- 肩甲挙筋
- 僧帽筋上部繊維
- 後頭下筋群
これらの筋群の起始、停止を見ると、頚椎だけではなく胸椎や肩甲骨にも付着していることが分かります。
このことからも、例えば後頭下筋群だけ伸張して終わりというだけでは不十分で、胸椎から下位頚椎にかけて伸展させるということをセットで考えることが重要なのです。
頚椎の側面
頚椎を含む脊柱の動きには、カップリングモーションと呼ばれるものがあり、屈伸は単独では起こらず、側屈や回旋と同時に起こります。
なので、ヘッドフォワードポスチャーというと矢状面からのアライメントに着目しがちですが、実は前額面から見た側面の筋群にも短縮や弱化、左右差があります。
そのために、頚椎側面では、以下の筋群の起始と停止、走行を理解しておくことがポイントです。
- 胸鎖乳突筋
- 顎二腹筋
- 斜角筋
- 頭・頚板状筋
- 肩甲挙筋
例えば、胸鎖乳突筋は頚椎の屈曲に作用しますが、反対側への回旋にも作用します。
すると、回旋と反対側への側屈も同時に起こるので、側屈側の筋群は短縮、反対側の筋群は伸張されて弱化しやすい傾向になります。
なので、脊柱の動きは必ず3次元で考えて評価することが重要となります。
下位交差性症候群の特徴と筋バランス
下位交差性症候群とは、骨盤・股関節周囲の筋群の短縮と伸張が対角線上に交差するように生じている不均衡な筋バランスの総称を指します。
先に解説した姿勢分類においても、対角線で筋バランスの不均衡が生じているケースがほとんどなので、この考え方を知っておくと評価や運動指導に役立ちます。
下位交差性症候群では、以下のように筋肉の短縮と伸張が対角線上に起こります。
【短縮する筋肉】
- 脊柱起立筋
- 広背筋
- 大腿直筋
- 大腿筋膜張筋
- 腰方形筋
- 内転筋群
【伸張(弱化)する筋肉】
- 腹横筋
- 内・外腹斜筋
- 大殿筋
- 中殿筋
- 小殿筋
- ハムストリングス
上記のように、腰部と股関節前面で短縮が起こり、腹部と殿部で伸張・弱化が起こっています。
腰椎前彎が強く、圧縮ストレスが加わっているため、腰椎後彎・骨盤後傾がしにくくなっており、それに伴って股関節も屈曲位で伸展がしにくくなっている状態です。
なので、ヘッドフォワードポスチャーの時の同様の考え方で、どちらか一方をストレッチや筋収縮を促すだけでは不十分です。
この場合は、腹筋をしっかりと働かせ腰椎を屈曲させること、その上で股関節前面を伸張し伸展させることがポイントになります。
多くの場合は、股関節前面のストレッチをすると、腰椎の過進展による代償が入りやすいので、先に腰椎の屈曲を促した方が効果的です。
脊柱と骨盤を触って確かめよう
姿勢はまず見て確認すると思いますが、それだけでは不十分な場合も多いので、可能な限り実際に触って確かめましょう。
実際に触って確かめることで、より3次元な脊柱と骨盤のアライメントを評価することができます。
脊柱の評価では以下の2点を意識して触りましょう。
- 頚椎、胸椎、腰椎が正常な彎曲かどうか
- 前額面で側弯がないかどうか
正常な彎曲かどうかは、矢状面と前額面それぞれで棘突起を指で左右から挟み、頚椎から下へ向かって滑らせるように触ると把握しやすいです。
この時、どちらかの指に棘突起が当たるようであれば、彎曲だけでなく側屈も入っていることになるので、それが機能的な側弯なのか構造的な側弯なのか評価を進める必要があります。
同時に脊柱起立筋の筋緊張も評価できるとよりグッドです。
次に骨盤ですが、正直骨盤は見るだけでは分かりにくいことが多く、必ず触って確かめることをお勧めします。
骨盤の評価では以下の3点を意識して触りましょう。
- 上前腸骨棘(ASIS)と上後腸骨棘(PSIS)の傾き
- 寛骨の内外旋
- 恥骨結合の上下偏位
恥骨結合はデリケートな部分なので、異性を触る場合は相手に触ってもらって確認するなどの配慮が必要です。
ASISとPSISに関しては、通常はPSISが1〜2横指上にあります。
ただ、PSISを触るのが少し難しいですが、下から指を滑らせるようにPSISへ向けて動かすと確実にPSISの凹凸を触ることができます。
寛骨の内外旋とは、水平面で見た時のASISとPSISの前後の偏位を左右で比べることで評価することができます。
例えば、右のASIS-PSISが左より前方へ偏位していたら、右の寛骨が左に比べて内旋していると考えることができます。
ここまで評価すると、脊柱と骨盤をかなり細かく評価できるので、どこを伸ばしてどこを鍛えるべきかが具体的に考えやすくなります。
効果の出るピラティスの考え方
ここまでを踏まえ、ピラティスで効果を出すために重要なことは以下の3つです。
- 弱化している筋肉を強化
- 短縮している筋肉を伸張
- 代償動作なくできる負荷に設定する
例えば、スウェイバックに対するピラティスなら、腹筋群を強化、ハムストリングスや大胸筋を伸張する運動を代償動作が出ない負荷量で行うといった感じです。
考え方自体はシンプルですが、ここまでで細かく評価できていれば、シンプルでも十分に効果は出すことができます。
もし、効果が上手く出ないのであれば、評価が曖昧か、運動で効かせたい部分に上手く効いていない可能性があるので、運動中も触診などしながら確認していきましょう。
丁寧に代償動作を抑えて運動を行えば、スウェイバックやカイホーシスロードシスのような腰椎の後彎を作るのが苦手な姿勢の方なら、ブリッジ運動10回だけでもかなりきつい運動になります。
運動も曖昧に指導せず、効果が出るように丁寧にとことんこだわりましょう。
姿勢評価分類と筋肉バランスのまとめ
今回は3つの異常姿勢の特徴と筋肉のバランス、それらに共通する上位・下位交差性症候群を解説しました。
何となく姿勢を評価するよりは、ある程度3つにパターン化してどれに近いのかと考えていくと、どう対処したら良いのかも見えてきやすいです。
また、見るだけの評価ではなく、実際に触って確かめることでより具体的にアライメントを確かめることができます。
今回はあまり触れていませんが、そこから実際に動きも見ることでさらに評価の精度を高めることもできます。
1人1人の姿勢に個性がありますので、決めつけずに丁寧に評価した上でピラティスを指導していきましょう。