ピラティスを指導しているとこんな悩みありませんか?
- ピラティスの呼吸は胸式呼吸とは言うが、正しい呼吸がいまいち分からない
- 正しい呼吸でどんなメリットがあるのか分からない
- なぜ胸式呼吸が良いのか分からない
- 呼吸に関する筋肉やメカニズムを詳しく知りたい!
本コラムではピラティス呼吸に必要な胸郭を中心とした関節の動き、胸式呼吸時に働く筋肉とその機能について解説します。ぜひ明日からの臨床で活かしてみてください!!
動画でまとめてチェックしたい人はこちら!
では実際にテキストでもチェックしていきましょう!
呼吸のメカニズム
ピラティスの呼吸を理解する前に、呼吸のメカニズムを理解しましょう!
そもそも呼吸とは、肺と気道を通って空気が吸入され、呼出されることによる機械的過程とされています。
簡単に言えば、「呼吸=吸気+呼気」と表すことができ、これは横隔膜の収縮と胸郭の動きによって実現されます。
- 吸気:能動的におこなわれ、脳幹(延髄・橋)にある呼吸中枢からの神経インパルスが横隔膜と肋間筋を刺激することで行われます。
- 呼気:受動的におこなわれ、肺の弾性収縮力によって実現し、安静時は完全に自動で行われます。
つまり呼吸には
- 肺
- 胸郭
- 横隔膜
この3つがうまく機能することが良い呼吸につながります。
吸気に使う筋肉
吸気に関わる筋肉は以下の通りで、安静時と努力時に分けられます。
- 安静吸気時
横隔膜(7割)+肋間筋(3割)
- 努力吸気時
胸鎖乳突筋、肋骨挙筋、脊柱起立筋、肩甲挙筋、僧帽筋、菱形筋群、大・小胸筋、前鋸筋
ピラティス呼吸は意識的に胸式呼吸をするので、安静吸気とは少し違いますが。
安静時に働く横隔膜と肋間筋の機能が必要です。
また、胸郭は前後、左右、上下に立体的に拡張することがポイントです。
一方、あまりオススメできないのが努力性の吸気です。
呼気に使う筋肉
呼気に関わる筋群は以下の通りで、こちらも安静時と努力時に分けられます。
- 安静呼気時
肺の弾性収縮のみ
- 努力呼気時
内肋間筋、腰方形筋、下後鋸筋、腹直筋、腹斜筋群など
基本的には膨らんだ肺が弾性収縮力で自然に元に戻るため、筋活動はほぼ必要ありません。
しかし、努力性吸気をしている方は要注意。横隔膜・肺も十分に機能していないため、呼気時の弾性収縮も働きません。すると、腹筋群を使って無理やり呼気しようとしますが・・・
普段からスウェイバックや反り腰のような不良姿勢であったり、努力性吸気のような呼吸パターンとなっている場合、下部肋骨が外旋して、腹筋群は上手く働きません。
「肺の弾性収縮も腹筋群による努力性呼気もできず、上手く呼吸しようとしているのにできない」
という悪循環に陥ってしまうのです。
ここまでが呼吸のメカニズムです。では次にそのメカニズムに大きな影響を及ぼす胸郭の機能解剖をチェックしていきましょう!
ピラティス呼吸に必要な胸郭の機能解剖
では胸郭の構成要素や動きについても理解しておきましょう。
胸郭は胸椎、肋骨、胸骨から構成され、以下の4つの関節を形成しています。
【胸郭を構成する関節】
- 胸椎椎間関節
- 胸肋関節
- 肋椎関節(肋横突関節、肋骨頭関節)
※胸鎖関節(胸郭構成要素の関節ではないが重要)
このように、胸郭は胸椎、肋骨、胸骨から構成されて動きが作られます。
つまり、ピラティスにおいて胸式呼吸を行うには、「胸椎椎間関節、胸肋関節、肋椎関節が十分な可動性を持っていること」が必要になります。
胸郭に関する解剖学やバイオメカニクスは下記の記事で詳しく解説しています↓
ここでは、呼吸時に重要な肋椎関節の機能解剖について解説します。
肋椎関節の機能解剖
肋椎関節は、左右12対の肋骨と胸椎から成り、肋骨頭関節と肋横突関節の2つを合わせた総称です。
肋椎関節は呼吸に連動して動き、以下のように動きます。
上半分の上位肋骨はポンプを上げ下げする様に似ていることからその動きをポンプハンドルモーションと呼び、下半分の下位肋骨はバケツの柄の動きに似ていることからバケツハンドルモーションと呼ばれています。
上位肋骨と下位肋骨で運動軸の違いから、微妙に動きは違いますが、基本的には肋骨が後方回旋しており、その動きに制限があると呼吸にも制限が生じるということになります。
呼吸に必要な横隔膜の機能解剖
呼吸に必要な胸郭の動きを理解したら、その胸郭を動かすために重要な横隔膜についても理解を深めましょう。
【起始】 胸骨部:剣状突起
坂井 健雄:プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論. 運動器系第3版
肋骨部:7〜12肋骨内側面
腰椎部:L1〜3の椎体前面、弓状靭帯
(右脚L3、左脚L2)
【停止】 腱中心
【支配】 頸神経叢の横隔神経(C3〜5)
迷走神経
このように、横隔膜は幅広く起始を持っており、胸骨や肋骨、腰椎にまで付着しているので、立体的に動くということがイメージできますよね。
また、広い起始面があるため、肋骨や腰椎のアライメント変化にも影響を受けやすく、スウェイバックや反り腰などの不良姿勢の影響も受けやすいと言えます。
横隔膜のメイン機能:吸気時に横隔膜が収縮・下降し、胸郭の拡張、胸腔内圧を下げる。結果的に肺に空気が入る。
ですね。
この時、腹部は腹腔内圧が高まり、安定性が高まります。
腹筋が上手く使えなかったり、姿勢が悪い人は横隔膜の機能不全によって、腹腔内圧が高まりにくいということです。
横隔膜機能のポイントとなるのが、横隔膜の収縮・弛緩時の上下幅です。専門的には横隔膜と胸郭内面に接した部分のことをZOA(ZONE OF APPOSITION)と呼ばれます。第8〜9胸椎あたりにあると言われています。
収縮時には下降し、弛緩時には上昇するという上下の動きを伴い、この移動量が少ないと肺にも十分に空気を取り込めません。
そこで重要なのが、横隔膜を高い位置に保つことです。
横隔膜が低くなる原因はいくつもありますが。ピラティスで注目すべきなのは「姿勢」です。姿勢が悪くなり、反り腰のような肋骨が開いた状態になると、ZOAは減少し、横隔膜の働きが不十分になります。
開いた肋骨を締めて、適切な姿勢に戻すことでZOAが正常化して、良い呼吸ができる準備ができます!
肋間筋の機能解剖
吸気の大部分は横隔膜が働きますが肋間筋もしっかりチェックしましょう!
肋間筋の機能解剖は以下の通り。
坂井 健雄:プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論. 運動器系第3版
- 内肋間筋
【起始】 下位肋骨の上縁
【停止】 上位肋骨の下縁
【支配】 肋間神経(Th1〜11)
【作用】 前部:吸気
中部:呼気
後部:呼気- 外肋間筋
【起始】 上位肋骨の下縁
【停止】 下位肋骨の上縁
【支配】 肋間神経(Th1〜11)
【作用】 吸気
内肋間筋は停止が上位肋骨の下縁、外肋間筋は停止が下位肋骨の上縁に付着しているため、内肋間筋は肋骨を下制させて呼気に作用、外肋間筋は肋骨を挙上させて吸気に作用します。
ただ、内肋間筋の前部繊維だけはその走行から、胸郭を横へ広げるように作用するため、吸気に働きます。
肋間にあるため、ここが硬くなると肋間が広がりにくくなり、胸郭の可動制に直に影響しますので、必ずチェックしておくべき部位でもあります。
ピラティスの良い呼吸ができるための条件
ここまで胸郭の機能解剖、横隔膜、肋間筋の機能解剖を解説してきました。
それを踏まえ、呼吸がスムーズにおこなわれるためには、以下のポイントが必要になります。
- 肺が十分に拡張できるための胸郭の可動性(肋椎関節、胸肋関節、胸椎椎間関節)
- 横隔膜が下制、挙上をスムーズにできる(姿勢アライメント、周囲組織との癒着、周囲組織の筋緊張増加や短縮、胸郭の可動性)
一言でまとめると・・「胸郭が過不足なく拡張/縮小できて、横隔膜も同様に収縮/弛緩できる状態」ですね!
その状態から外れてしまうと、胸鎖乳突筋や脊柱起立筋などを代償的に過収縮し、スウェイバックなどの不良姿勢にも繋がりやます。
姿勢と呼吸の関係性
姿勢と呼吸の関係性も重要なポイントなので抑えましょう。
- 脊柱後弯姿勢は上位胸郭の体積変化が生じる
- 肋骨が広がりすぎると横隔膜がうまく上下しない(ZOA)
- 円背姿勢では呼吸筋が姿勢補助筋として使用される
- 円背姿勢では胸郭拡張差,呼吸筋力,肺活量 が低下する
- 頭部が前方にある姿勢は肋骨の運動を減少する
ことがわかっています。
シンプルに良い姿勢を整えることで、呼吸をしやすい胸郭・横隔膜が変わり、呼吸機能が改善するということですね。
ピラティスの原則である「呼吸」は論文でも効果が強く示されています。
呼吸を評価する方法
視診
呼吸時に見るポイントは以下の3つです。
- 呼吸補助筋の過収縮がないか
- 胸郭が360°に拡張、縮小する(上下、前後、左右に動く)
- 胸郭のどの部位が動いているか、動いていないか(吸気、呼気ともに)
肩が上がる、腰や背中が後ろへ傾く、あごが上がったり前に出るなどの代償動作は注意深く観察しましょう。
特に胸郭の後面は上部、下部ともに拡張しにくいので、そこが拡張しているかどうか、意識させてもできないのかという点は確認しておきましょう。
また、胸郭の動きを見る際には、吸気と呼気のどちらに問題があるのかを評価し、それに基づいた評価を進めていくのがポイントになります!
その中でも重要なポイントが、「どの部位の肋骨が起点となって呼吸に制限が起こっているのか」という点です。
- 肋骨は吸気では挙上、呼気では下制します。
- 挙上では一番上の肋骨から順に、下制では一番下の肋骨から順に可動します。
これは誰でも当てはまる原作で、途中の肋骨から突然動くということはありません。
つまり、吸気では制限のある最も上位の肋骨、呼気では制限のある最も下位の肋骨に目星をつけ、そこが動かないのは何故かを考えていく必要があります。
これを無視してとりあえず胸式呼吸の指示を出していても、問題となっているレベルの肋骨の制限が解消されていなければ、全体の動きとしても変わらないということになります。
これはかなり大事な視点なので、必ず覚えておきましょう。
脊柱の分節性評価
胸郭を構成する肋骨は胸椎と肋椎関節を形成しているため、胸郭の動きは胸椎の動きに依存します。
- 胸椎の後彎が強い:胸郭の前面は潰れて拡張されにくい
- 胸椎の後彎が弱い:胸郭の後面が拡張されにくい
そのため、胸椎の動きを評価することが重要になります。また胸椎は腰椎や頸椎の動きにも左右されるので、脊柱全体もチェックします。脊柱の屈伸、回旋、側屈の可動性の評価、各椎体レベルで分節的に動くことができるかを評価しましょう。
これらを評価するには四つ這いがおすすめです。
【屈伸の評価】
- 四つ這いになる
- 腰椎から順に腰椎、胸椎、頸椎を屈曲させる
- 再び、腰椎から順に伸展させる
【側屈の評価】
- 四つ這いになる
- 脊柱をなるべくフラットにする
- 脊柱全体で側屈させ、C字を作るイメージ
- 反対側も同様に行う
【回旋の評価】
- 四つ這いになる
- 腰椎の代償が出ないように、可能ならお尻を踵に乗せる
- 片手を後頭部に乗せ、胸椎を回旋させる
- 反対側も同様に行う
以下の点にも着目しましょう。
筋肉の柔軟性評価
多くの場合、腰椎の伸展、あるいは後傾により代償的に胸椎の後彎が強くなっていることがあります。
そのため、脊柱起立筋や広背筋など背面の筋群の柔軟性を引き出し、腰椎の屈曲ができる柔軟性が必要です。
その上で胸椎の伸展を促すことで、横隔膜の機能や胸郭の可動性を十分に高めることができます。
まずは、腰部脊柱起立筋、広背筋の柔軟性を評価しましょう。
【脊柱起立筋の評価】
- 四つ這いになる
- 頸椎から胸椎をフラットに保つ
- 胸椎が動かないように腰椎を最大限屈曲させる
【広背筋の評価】
- 座位になる
- 肩、肘関節屈曲90度にする
- 手掌は自分へ向け、両腕をくっつける
- そのまま肩関節を屈曲していく
- 屈曲110度(肘が鼻の高さ)まで挙上できればOK
胸椎を固定した状態では腰椎を屈曲できない、両腕をくっつけた状態では肩を屈曲できない場合は、脊柱起立筋や広背筋の柔軟性低下を疑いましょう。
ピラティス呼吸のまとめ
今回は、そもそも呼吸がどういったメカニズムになっているのか、ピラティス呼吸に必要な胸郭、横隔膜や肋間筋の機能解剖、スムーズな呼吸が行われるために必要なことと評価まで解説しました。
ピラティスでは胸式呼吸が基本ですが、一言で胸式呼吸とは言っても考えなくてはいけないことはたくさんあります。
そして、それらを考えるには胸式呼吸における要素を分解して、何が足りないのか、あるいは何が過剰なのかを取捨選択し修正、フィードバックすることがピラティスインストラクターの腕になります。
また、本記事でお伝えした内容は呼吸だけではなく、胸椎や胸郭を動かすエクササイズにも応用できますので、是非とも身につけてください。
明日からの臨床・セッションに活かしてみてください!!