胸腰筋膜の解剖学的特徴を知ろう!
「胸腰筋膜(きょうようきんまく)」って聞いたことありますか?
少し難しい言葉に聞こえるかもしれませんが、ピラティス指導者にとってはぜひ押さえておきたいキーワードの一つ。
なぜならこの胸腰筋膜、腰の安定性や姿勢保持において超重要な役割を果たす筋膜構造だからです。
実は、腹横筋・内腹斜筋・外腹斜筋など体幹の筋肉は、この胸腰筋膜を通じて“背中側の安定”に大きく関与しています。
ではまず、どこにあって、どんな役割があるのか?を見ていきましょう。
胸腰筋膜とは?

胸腰筋膜は、背中の腰のあたりに広がる“分厚い筋膜の集合体”です。
場所としては、
- 胸椎の下部(第7〜12胸椎)
- 腰椎(第1〜5腰椎)
- 仙骨周辺
この辺りに付着していて、背部の筋肉たちの「土台」のような役割をしています。
実際に胸腰筋膜に付着する筋肉はかなり多く、
- 腹横筋
- 内腹斜筋
- 外腹斜筋
- 多裂筋
- 広背筋
- 大臀筋
などなど、姿勢保持や歩行、体幹の安定に関わる大事な筋肉たちと繋がっています。
つまり、胸腰筋膜がしっかり働く=体幹の安定性が高まる、というわけです。

なぜそんなに重要なの?
胸腰筋膜が重要とされる理由は大きく2つあります。
① 腰部の安定性を高める
胸腰筋膜は、腹横筋・内腹斜筋といった体幹インナーユニットと協力して、腰部の“コルセット的な安定”をつくります。
たとえば、
- 重い物を持ち上げる
- 片足立ちをする
- 床から立ち上がる
といった動作時には、胸腰筋膜を介して筋肉同士が連動しながら体幹を安定させます。

② 筋膜ネットワークの中心にある
胸腰筋膜は、“筋膜の交差点”のような場所。
広背筋(上半身)と大臀筋(下半身)がここでクロスするため、「スリング(斜めの筋連鎖)」の中継地点でもあります。
つまり、胸腰筋膜が硬かったりうまく動かないと、上半身と下半身の連動がうまくいかなくなるということ。
この状態だと…
- 腰痛が起こりやすい
- 歩行時にブレる
- スポーツでのパフォーマンスが低下する
といった影響が出てきます。
胸腰筋膜の起始・停止とは?
起始・停止は以下の通りです。
【起始】
・第7〜12胸椎の棘突起
・腰椎の棘突起
・仙骨
・腸骨稜【停止】
・腹横筋・内腹斜筋の起始部
・広背筋や多裂筋との連結部【作用】
・腰椎の安定化
・体幹の伸展・側屈・回旋の補助
・上半身と下半身の連動性強化
専門用語ばかりでわかりにくい!という方のために、
【ズボラ起始】
背骨の下の方からはじまってる
【ズボラ停止】
お腹のインナーマッスルたちがくっついてる
と覚えておけばOKです!
現場では走行がフワッと抑えられれば十分なので簡単に走行の流れだけ抑えましょう!笑
胸腰筋膜が硬くなるとどうなる?
胸腰筋膜が硬くなると、筋膜としての滑走性が低下し、筋連鎖のリズムが崩れます。
結果として、以下のような現象が起こりやすくなります。
- 腰部の可動性が低下し、代償的な過剰伸展が発生
- 広背筋や大臀筋との連動が崩れ、パワーロスが起こる
- 呼吸が浅くなり、胸郭のモビリティにも影響
「胸腰筋膜の硬化は腰部痛症候群や仙腸関節痛と関連する可能性がある」
(Schleip et al., 2014)
また、Fascia自体は痛覚受容器が多く分布しているため、筋膜の拘縮や炎症が慢性腰痛の一因となることも知られています。
硬くなっている場合は、ストレッチやモビリゼーションだけでなく、呼吸や腹腔内圧の調整(ドローイン・ブレーシング) などからのアプローチも有効です。
胸腰筋膜が弱くなるとどうなる?
胸腰筋膜がうまく使えていない場合、指導現場では以下のような代償動作やエラーパターンがよく見られます。
・体幹エクササイズ中に肋骨が前方に開く(リブフレア)
胸腰筋膜が弱く、腹横筋・内腹斜筋がうまく働いていないと、腹腔内圧が維持できず、体幹が不安定になります。その結果、安定性を補うために胸郭が広がり、リブフレアが起きやすくなります。
「腹横筋の収縮が遅れることで、胸郭のコントロールが低下する傾向がある」
(Hodges, 1996)

・片足立ちで腰が過度に反る(腰椎伸展の代償)
胸腰筋膜を介したコアの安定が弱いと、下肢支持時に骨盤が前傾しやすくなり、腰椎の過伸展でバランスをとろうとします。

・バードドッグで骨盤が左右にぶれる
胸腰筋膜が安定性を支えられていない場合、四つ這い姿勢で対側の手足を挙げると、骨盤が左右にぶれてしまいます。これは体幹の回旋・抗回旋能力が不足しているサイン。

・ドローイン時に首や肩に力が入る(腹部の感覚不全)
腹横筋の意識が低いと、代わりに胸郭上部の筋群(胸鎖乳突筋や斜角筋など)が過剰に働き、首肩に力が入りやすくなります。
これらのサインに気づいたら、以下のような対処が効果的です。
- ドローインの再学習(仰臥位やストレッチポール上で)
- 背面の筋群(広背筋・大臀筋)のリリース
- ニュートラルポジションの再認識と再教育
「胸腰筋膜の機能がうまく発揮されていない=体幹の土台がグラついている」状態なので、まずは**“感じる”→“安定させる”→“動かす”**という段階的な指導が大切です。

エクササイズとストレッチ
【1】胸腰筋膜ストレッチ
- 下半身は伸ばしたい殿部をあぐら、上半身は対側の上肢をリーチして伸ばす。
- 胸腰筋膜は大殿筋と広背筋を対角線の接続あり。その接続の起始停止を離すイメージでストレッチ。
- 胸腰筋膜背部の伸び感あればOK。上半身捻る際に起始部の殿部が動かないように注意。
【2】スワン/胸腰筋膜ver
- うつ伏せ姿勢スタート。上半身は肘プランク姿勢&下半身は膝90度に曲げてあぐら姿勢(足裏合わせる)。
- 腹横筋、腹斜筋、多裂筋、広背筋、大殿筋など胸腰筋膜の接続筋全てを協調的に働かせる。
- 伸展系エクサササイズなので腰に入りすぎやすいので注意。骨盤後傾意識で下腹部の引き込みを。
まとめ
一言でまとめると、
胸腰筋膜は、体幹の交差点
です!
胸腰筋膜は、ただの「背中の膜」ではありません。
- 腹横筋・内腹斜筋・多裂筋・広背筋・大臀筋…といった姿勢と動作を支える筋肉たちの“つなぎ目”
- 上半身と下半身をつなぐスリング構造のハブ
- インナーユニットと連動して働く、腰椎安定のキープレイヤー
- 筋膜ネットワークの中心として、感じる→安定→動きを支える重要な役割
指導現場でも、胸腰筋膜の不調サイン(リブフレア、腰椎過伸展、骨盤の左右ブレなど)に早く気づくことができれば、より根本的な改善へとつながります。
そして、エクササイズもいきなり負荷をかけるのではなく、
- 感じる
- 安定させる
- 連動させる
このステップを意識して進めることで、胸腰筋膜の機能性はより引き出され、クライアントの動きやすさにも直結してきます。
胸腰筋膜は、縁の下の力持ち。
だからこそ、見えにくいところを丁寧に、そして戦略的にアプローチしていきましょう!
以下は、今回の投稿に関する関連動画になります。
是非腰背部の認識をさらに動画でも深めてください!